咲ク夜 ~妄想ライブラリー~
恋愛小説(連載・短編)他。妄想をカタチに・・危険な願望・・ フィクションの中にこそ真実があり!?
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【短編読切り小説】 遺書 ~ラスト ラブレター~
遺書はラブレターかもしれない。
あるいは心の支え。


遺書 ~ラスト ラブレター~


もうすぐ9月だというのに、うだるような暑い午後だった。未央は、リビングの小さな戸棚で蟻の行列を見つけた。
「しまった! お菓子を入れっぱなしにしていたかも」
未央の予感は的中していた。封を切ったカステラ菓子の袋の中に蟻が大量に群がっていたのだ。未央は蟻が大嫌いである。気持ち悪くて目を覆いたくなったが、自分で処理するしかなかった。

未央は夫の秀二と二人暮らしだったが、昼間に夫が居ないのは仕事に行ってるからではなかった。秀二は鬱病を患っており、現在休職中であった。今日はメンタルクリニックの通院の日で、出かけていた。

未央は、まず戸棚の荷物を片っ端から出した。ほぼ出してしまったところで庭へ持ち出し、放水して蟻を追い払おうと考えた。そして、蟻が群がってるお菓子の袋を長箸で摘んで放り投げた。未央は、ふぅ~と大きなため息をつくと、戸棚の奥のほうに白い紙切れのようなものが見えた。それは、キチンと折り目正しく置かれてあった。

蟻を手で追い払いながら紙切れを拾うと、それは白い便箋だった。そして、ゆっくりと開くとびっしりと手書きで文字が書かれてあった。秀二の文字だった。

「蟻の行列の原因はコレだったんだな」

この手紙の存在に気付いてください・・・・一連の騒動は、この為のメッセージであるような気がしたのだ。未央は笑みすら浮かべていた。

・・・が、数分後、未央から笑みが消え、わらわらと涙に変わった。

「何これ! 何よこれ!!」

未央は声に出して泣きじゃくっていた。


僕は周囲に迷惑をかけてばかりだ。・・・・いっそのこと死んでしまったほうがいいだろう。・・・・未央、こんなダメな僕について来てくれてありがとう。・・・・しあわせに出来なくてごめん。辛い思いばかりさせてごめん。・・・・でも、僕はしあわせだったよ。・・・・最後に・・・・未央、愛している。


秀二は普段、未央のことを“みーちゃん”などと愛称で呼んでいた。しかし、手紙には下の名前で呼び捨てで記されてあり、このことが余計に未央の心に真摯に響いていた。
「あ・・あ・・、こんなことしてる場合じゃないわ! ええーっと、携帯・・」
慌てながら、震える手で秀二の携帯に電話をかけた。すぐに秀二が出た。
「どうしたの?」
普段と変わらない落ち着いた声がそこにあったが、鳥の鳴き声が木霊するBGMが聞こえていた。秀二のメンタルクリニックは街中のはずだった。
「そこ、どこ? 何だか山の中っぽいけど?」
「うん。今日は天気が良かったからドライブしたくなったんだ」
「・・・そうね。そういう息抜きって大事だよね~」
未央は安堵の気持ちでそう言うと、しばらく沈黙があった。だが、秀二はさらっと言ってのけた。
「実はね、さっき、死のうと思っていたんだ~! このまま車ごと崖に突っ込んでね。でも・・・止めた! このタイミングでみーちゃんの声が聞けて良かったよ。何でわかったの? さすが・・だね。今から帰るよ」
未央は、ただただ泣きながら
「良かった・・無事で良かった。・・・・・気をつけて、安全運転して・・・帰ってきてね」
とだけ、やっと言うことができた。

未央は戸棚をさっさと片付け、手紙も元に戻し、何ごともなかったようにリビングに置いた。秀二が帰ってくると、抱きついて泣いた。
「ごめん。ごめん。いつも心配ばかりかけてごめん。・・・もう、僕、大丈夫だから。バカみたいなこと、もう考えたりしないよ」
そう、秀二が言うと未央は少し冷静になった。

「いつも、こ・の・パ・タ・ー・ン」

秀二が“死ぬ~!!”と騒ぎ立てるのは1度や2度のことではない。秀二の“騒ぎ”が終焉すると、恐ろしいほどの冷静さが襲ってくるのだった。
「私は冷たいのかもれない」
いつも自分を責めていた。
「秀二、きっと本気で死ぬ気ないわよね。わーーっと騒いで、私は本気でなだめて・・・、それで愛情とか存在価値とかを確認して安心するのかしら?」
と、密かに思っていた。

「秀ちゃん、病院どうだった?」
「ん、いつも通り。30秒の面接とクスリ貰うだけ」
「何かさ~、気になることとか箇条書きにして、質問をぶつけてみたらいいんじゃない?」
「ああ~、そんなことしたってムダだよ。何でも一言で済ますのよ、あの医者は。ま、そんなに気になるんなら、みーちゃん、書いといてよ」
未央はため息をついた。
「本気で病気を治おす気があるのかしら?」
と、思うのだ。

「今日ね、あの戸棚に蟻が行列作ってたの。そしたら、お菓子を入れっぱなしにしてたの」
「あ~あ~、ダメじゃーん! 気をつけないと」
「すみませーん」
実はお菓子を入れっぱなしにしてたのは秀二のほうだったが、未央が謝った。鬱病の患者に“責めたり”するのは厳禁なのだ。“頑張れ!”との言葉も厳禁だし、患者の家族は色々と気を使うことが多い。未央は“遺書”のことをさりげなくカマにかけてみたのだが、秀二は自分で書いておいて、全くその存在すら忘れているようだった。未央の方も、それ以上突っ込まず知らないフリをして、この先を過ごした。

「どんな気持ちであの手紙を書いたのかしら。 “脅す”ための小道具? それとも本当の気持ち?」
未央は後者のほうではないかと思っていたし、そう思いたかった。そして、手紙の内容を心の支えにして生きていた。

<完>
※このストーリーはフィクションです

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

今は隠れ鬱が多い時代と聞きます。
そうなった時の心境やフォローを
正確には知りませんが・・・

私は彼の行動は
どれも本当だと受取りました。
「前向きに健やかに生きたい」と思う反面
「もうダメだ。死んでしまいたい」という絶望感。
そして、それを示すことによって
慌ててくれる人を見て、自分の存在意義を確認する。
瞬間、瞬間、どれも本気で思うんじゃないかなと。

実際、人間って一貫性がない時もあるし
私なんて、自分で自分が何考えているのか
解らなくなる時もありますも~ん(笑)

だから、どれも本当の気持ちだと。
一部、側面だけを見て全部を解った気になっていても
物事って、ほんの少ししか解っていないのかも。
な~んて。

【2009/09/17 19:05】 URL | あっち #- [ 編集]

●あっちへ
今、鬱は多いですね。

人というのは、他者によって存在意義を確認するものなのかもしれませんネ。
自分というものは、(正常な人でも)時々解らなくなるしね~~
月並みだけど、人は一人では生きられないんだなぁ。
人の優しさが身にしみる時が、かなりあります。

PS
実は、新しいブログをつくったのですよ。
気が付かれましたか?
右サイドバーの“隠れ家ブログ”のリンクをクリックしてみてください。
つい最近ですが、コッソリやって営業してます(笑)
【2009/09/18 14:18】 URL | sakuya #- [ 編集]


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