咲ク夜 ~妄想ライブラリー~
恋愛小説(連載・短編)他。妄想をカタチに・・危険な願望・・ フィクションの中にこそ真実があり!?
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寄生木
弱いは強い。
強いは弱い。
生まれつき生命力が弱くとも
しっかり生きてゆく術(すべ)はある。
それは
強い人から、すこしだけ手を貸して貰うこと。


これは、いのちの物語です。



寄生木(やどりぎ)


「吸い込まれるような青の冬の空が好き。そして、このオークの木の葉がすべて落ちてしまうと、キレイに姿をあらわしてくる寄生木が好き」
つぐみは祈るような気持ちで寄生木を見上げていた。オークの木の近くに、つぐみは夫と2人の子供と静かに暮らしている。

寄生木(やどりぎ)とは、オークの木など他の植物から生気を吸って生息する寄生植物である。遠くから見ると鳥の巣のようにも見える。北欧では縁起の良い植物とされ、クリスマスの飾りにもよく使われている。寄生木の下で恋人同士がキスを交わすと幸せな結婚ができるとの伝説もある。

つぐみは常に寄生木と共に生きてきた。つぐみの母はなかなか子宝に恵まれず、ある日、このオークの木の寄生木の下で
「どうか宿してください」
と祈ってみたところすぐに恵まれたのだ。それからは神が宿る木として、ことあるごとに祈りを捧げてきた。
「病気が治りますように」
「命を助けてください」
「恋が実りますように」
「結婚できますように」

結婚を考えている恋人を連れてきては木の下でキスをねだってみたりした。そして願いはみごとに叶えられ、幸せな家庭を築くことができた。


そして今再び、つぐみは寄生木の下で強く祈りを捧げている。

「何とか30歳まで生きてこれました。とても感謝しています。でも、二人の子供を残して死ぬわけにはいきません。どうかお願いします」

つぐみは、“今を生きている”と感じることがとても嬉しい。夫や子供たちの服にアイロンをかけている時、そのことだけに集中する。料理をする時も心を込めて作る。毎日を丁寧に暮らしたいのだ。どうなるのか分からない未来のことや、ちょっぴり悔いている過去のことはなどはなるべく考えない。心が未来や過去へ浮遊しないよう、“今”を踏みしめている。

人は命の期限を感じると、“今”を大切にしたくなるのかもしれない。つぐみは今までにたくさんの悲しみを経験してきた。今、自分が生きていられるのは、たくさんの人の悲しみの上で成り立ってると感じている。だから、何としてでも生命を大切に繋いでいかなければならないのだ。




つぐみは超未熟児でこの世に誕生した。妊娠27週で1000gにも満たない超低出生体重児であるため、すぐにNICU(新生児集中治療室)のある病院へ搬送することになった。だが、どこの病院もNICUはいっぱいで空きがない。このままでは生命が危ない。しばらくすると、ある病院から連絡があり、状態が比較的良好な新生児の1人をNICUから外すことにして、つぐみは優先的にNICUへ入れてもらうことになった。

だが、NICUから外された子は1週間後に静かに息を引き取った。この子の母は半狂乱状態になり、つぐみの母を激しく責めた。しかし、つぐみの母も負けなかった。どんなに罵られても気丈に耐えた。
「亡くなった子は、そういう運命だったのです」
と啖呵を切ったこともある。
母とはわが子の為ならどんなことでもできてしまうものよと言わんばかりの強さを見せていた。

その後、つぐみには先天的な心臓の疾患があることが分かった。だが、NICUの中で逞しく生き抜きついに退院することができた。普通の赤ん坊のようにハイハイしたりミルクを飲んだり、つぐみ一家にとって幸せな日々が続いた。

だが、3才の頃の検診で、やはり心臓疾患のことが取り上げられ、早期に心臓移植をしなければ長くは生きられないと告げられた。しかし、この時は日本での移植が不可能だったので海外で手術するしか手立てはなかった。費用も莫大にかかる。つぐみの家は普通のサラリーマン家庭だ。諦めるしかないのだと誰もが思っていた。

すると、再びつぐみの母が立ち上がった。率先して街頭募金活動をし、多くの人の善意の金額が集まった。つぐみの父も通常の仕事とは別にバイトを掛け持ちして治療費を稼いだ。

そして、つぐみが6才の時に適合するドナーが見つかり、アメリカで手術をすることになった。費用は募金が60%、つぐみの家の家計から20%、残りの20%は借金をした。適合するドナーと言うと、まるでモノを貰うような表現だが、人が1人脳死状態で死んだのである。その貴重な命を頂くのである。

手術は成功した。その後、つぐみは脅威の回復を見せていた。小学校高学年頃には運動も普通に出来るようになっていた。だが、その頃、つぐみの父は借金の返済等の過労が重なり倒れてしまい亡くなってしまった。つぐみは、その悲しみを忘れたくて、中学に入ってからは運動部に所属し没頭した。



高校生になったつぐみは、少し物思いにふけることが多くなった。子供時代のように無邪気ではいられなくなったのである。他人の命を頂いて生きているということに重荷を感じるようになった。部屋に篭って、ナイフで腕にキズを入れてみることもあった。“リストカット”だ。赤い血が流れるのを見るとホッとした。しかし、本気で死ぬことは出来なかった。それは許されないであろうと感じていたからである。一般の人は死にたければ自由に命を絶てる選択がある。それをすることが出来ないつぐみは、ますます追い詰められていた。そんなある日、ついに耐え切れなくなっていつもよりも深くナイフを入れてしまった。つぐみは意識が朦朧となり、部屋は血の海になった。

気が付いたら病院のベットに居た。そして、目覚めると同時に信じられない出来事が起こっていた。つぐみの恋人がバイクの事故で亡くなったという知らせだった。つぐみは自分のしたことを深く後悔して泣いた。もちろん、つぐみのリストカットとバイク事故は何の因果関係もない。だが、つぐみは自分の生命と引き換えに恋人が亡くなったような気がしたのだった。これからは、亡くなった恋人の分まで強く生きてゆかなければいけないと思うようになった。



3年経ち20歳を過ぎた頃、つぐみは結婚した。オークの木の下で結婚写真を撮った。しばらく経つとつぐみのお腹には新しい命が芽生えていた。自分が生まれた妊娠27週の頃は、この子も同じ運命を辿るのかと心配したが、特に何ごともなく予定日に無事に生まれた。10歳まで生きられないかもしれないと言われたつぐみが、こうして子供を産むことが信じられなかった。つぐみは神様に深く感謝した。この日ほど生きてる喜びを深く味わったことがなかった。

1人子供に恵まれただけでも嬉しかったのに、2年後には第2子まで誕生した。つぐみは、これからもこの子たちのために生きてゆかねばと強く心に誓った。

つぐみの夫には姉が1人居たが、この義姉夫婦は何故かなかなか子供に恵まれなかった。聞いた話によると流産を2回したが、その後はいくらがんばっても妊娠しないのだという。つぐみは義姉に恐る恐るオークの木の寄生木の下で祈ると願いが叶うという話をしてみたが、義姉は迷信だと言って信じようともしなかった。



2人の子供たちも順調に成長し、結婚して9年の月日が流れ30歳になった頃、つぐみは再び命の危機にさらされていた。マンモグラフィーで悪性の腫瘍が発見されたのだ。そして周辺臓器にも若干転移が見られると言う。若いから転移も早いと言われ、医師からは命の期限を宣告された。

つぐみの母が聞きつけて遠方からやって来た。つぐみの母は、つぐみが11歳の頃に父を亡くしてから、女手一つでつぐみを育ててきた。つぐみが命の危機にさらされる度に、立ち上がってきた気丈な母である。母は5年前に再婚し新しい夫と2人で暮らしている。つぐみは苦労ばかりだった母に対し、今後は自由に好きなように生きて幸せになってほしいと願っていた。

つぐみと母は、オークの木の寄生木を見つめながら語り合っていた。
「寄生木って、寄生植物でしょ。オークの木から栄養を吸い取って育っているんでしょ。本体の木は、吸い取られていつか枯れてしまったりしないのかしら?」
つぐみがそう質問を投げかけると母は言った。
「寄生木自体もね少しは光合成が出来るのよ。ホラ、見て! 冬になってオークの木はすっかり葉を落としてしまっているのに、ヤドリギは青々と葉を生やしているじゃない! 大丈夫よ、木が枯れるまで栄養を取ったりはしないから。寄生と言う言葉は少し聞こえが悪いわね。本当は共存だと思うのよ。寄生木は誰かに支えてもらわないと生きてゆけない。でも、けして弱い植物なんかじゃないのよ。自分の特性を知りつつ、生かしながら強く生きていると言えるわね」
つぐみは、自分自身がまるで寄生木みたいだと思っていた。
「寄生木って、どうやって増えるの? だって、固い木の幹に寄生するんでしょ? それでは、こぼれ種が埋め込まれないじゃない」
「ふふふ。それはね、“つぐみ”っていう野生の鳥がね、寄生木の実を食べて枝の上で排泄するとね、そのフンに付着した種が発芽して成長するのよ」
「はっ、つぐみっていう名前、そういう意味だったんだ」
「あなたは生命を繋いでいく人なの。だから、ゼッタイ死んだりしてはダメなの!」
母の言葉の最後の“死んだりしてはダメ”がいつになくつぐみには力強く聞こえたのだった。



それから2週間後に、母は突然クモ膜下出血で亡くなってしまった。つぐみは
「どうして、どうして」
と激しく泣き叫んだ。
「母のもとへ連れていってほしい」
と何度も言った。しかし、母が最後につぐみに語ってくれた言葉を抱きしめて生きていかなければ、母に申し訳がたたないとも思ったのだった。

そして、奇跡が起こった。転移されていたはずの癌細胞がキレイに消えていたのだ。医師も現代医学では解明出来ないことだと言った。乳癌の方は手術でキレイに除去することで完治した。

つぐみは死なずに済んだ。これからも2人の子供の成長を見守っていけることが、何よりも有難いことだと感じている。
「これからも生命を輝かせて生きてゆきたい。生まれつきの生命力は弱いけど、それは自分の特性だから受け入れるしかない。父や母、たくさんの人のから頂いた生命を大切にし、時には人から手を貸して貰いながら生命を繋いでいこう」
枯木立が並ぶ冬景色の中、寄生木だけが妙に瑞々しく緑色の葉をたたえていた。

<おわり>
※このストーリーはフィクションです

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

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