咲ク夜 ~妄想ライブラリー~
恋愛小説(連載・短編)他。妄想をカタチに・・危険な願望・・ フィクションの中にこそ真実があり!?
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~CONTENTS (もくじ)~ 更新情報♪
愛はすべてを超越する カタチもモラルも常識も 自由でせつない世界を・・
※一部に官能表現も含みますので、閲覧は18歳以上の方とさせて頂きます。

薔薇

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【13.1/18.UP】
 「寄生木」(短編読み切り小説)

生まれつき生命力の弱いつぐみだが、その特性を生かしながら強く生き抜いてゆく。他の植物から生気を吸って生きる「寄生木(やどりぎ)」という寄生植物とリンクした女の子の物語。やさしいホラー。

※2009年に書いたものを新たに書き直しました。

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【11.2/25.新作UP】
3 P (短編読み切り小説)

好きなひとを一人に絞れないんです
竹を割ったような鮮やかな欲望・・・
賛否両論なオンナを描いています!
人には言えない秘密&独自の価値観・・
あなたはどう感じますか?

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【12.1/25.第44話 最終回UP】
BABY DOLL (連載小説・全44話 【連載終了しました】

イメージ


「ぜんぜん勉強していない」と言いながら、ちゃっかり欲しいものを手に入れる主人公の朋乃。可愛いくて甘ったるい見た目とは裏腹に、実は超現実主義で負けずぎらい。幸せはボーっとしていても手に入らない! 「フツーの幸せ」は結構ムツカシイのだ。大学受験、就職活動を経て、一流企業のOL、不倫、結婚、不妊治療、子育て、婚外恋愛etc・・・朋乃の17歳~31歳までの赤裸々なオンナの履歴書。


↓クリックして別ウィンドウで1話ごとに読めます
(もくじ)
●第1話「ギャップ」
●第2話「最強のギャル女子大生」
●第3話「本能のまま生きる女」
●第4話「覚醒」
●第5話「リアリスト・ファイター」
●第6話「オフィスラブ・下克上」
●第7話「仕事と恋の出し抜き作戦」
●第8話「心を掻き乱された意外な出会い」
●第9話「誰にも言えない過去」
●第10話「23歳、初エッチは不倫」
●第11話「隣の芝生は青い」
●第12話「風向きを変えてみる」
●第13話「マリッジブルー」
●第14話「甘いだけではない新婚生活」
●第15話「社内でのセクハラ発言」
●第16話「初めての産婦人科」
●第17話「子作り狂想曲1」
●第18話「子作り狂想曲2」
●第19話「墓場まで持っていく秘密」
●第20話「オンナはいつだってオンナでありたい」
●第21話「欲望と予防線」
●第22話「ガンジガラメからの脱出方法」
●第23話「友だちの為に、そして自分の為にがんばること!」
●第24話「空気を変える女と、読めない女」
●第25話「オンナの幸せって?」
●第26話「愛とリラックスとドラマと奇跡」
●第27話「待望の妊娠と新たな試練」
●第28話「オンナの一大決心」
●第29話「育児から社会復帰したい焦り
●第30話「できちゃった婚→離婚→新しい恋人」
●第31話「シングルマザーの恋」
●第32話「二人目の子作り」
●第33話「不妊治療」
●第34話「本能女」
●第35話「ママだけで終わりたくない」
●第36話「セックスレスから婚外恋愛へ
●第37話「罪悪感
●第38話「ロストラブを乗り越えて輝く人たち」
●第39話「不倫日帰り旅行」
●第40話「宴の後の厳しい現実
●第41話「女の勘」
●第42話「婚外恋愛の終わり方」
●第43話「パニック障害」
●第44話「三十路、本当の自分探しへ」最終回

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【10.9/29.NEW 後編UP】
【前世物語②】
マリアンヌの罪(前編)
               (中編)
                (後編)

作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?

時は中世フランス。
母に捨てられ10歳で修道院へ入れられたマリアンヌ。
流転する人生。潜む悲劇。衝撃のラスト・・
※(前編)(中編)(後編)の3部構成となっております。

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【10.3/7.UP】
婚外片想い  (1話完結型 シリーズ小説)

結婚したら、人を好きになってはいけないのですか?

結婚後の せつなくて くるしい 片思い
リアルな主婦の実像から、こんな、いくつものストーリーが生まれました。


↓クリックして別ウィンドウで1話ごとに読めます
(もくじ)
●「正反対のひと」・・鬱のダンナより明るく逞しい彼に惹かれてしまう・・

【10.3/7.UP】
●「ダンナの友だち」・・一人勝手に恋して苦しんで・・

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【10.1/5.UP】
【前世物語①】
モロッコの悲愛 ~一夫多妻から純愛へ~


作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?
【前世物語①】は、モロッコの男性だった時代の悲しい愛と別れの物語。


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【09.10/9.第4話UP】
大奥★社内恋愛  (短期連載小説・全4話)

●第1話→もしも、女ばかりの会社に、目の覚めるようなイケメンが入社して来たら・・・ さあ、大変です!!
●第2話→イケメンを巡って争奪戦。へビィな展開へ・・・
●第3話→社内の女性と複数関わるイケメン。女性たちのそれぞれの想いとは・・
●第4話→最終的にイケメンをゲットするのは誰か?

<sakuyaからのメッセージ>
ここのところシリアスな話が多かったので、今回は、痛快!ラブストーリーです。
どうぞお楽しみください。短期連載・4話で完結です。

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【09.9/1.UP】
遺書 ~ラスト ラブレター~ (短編読みきり小説)

鬱病で休職中の秀二を支える、妻の未央。ある日、戸棚の中から秀二の手紙を見つける。その手紙の驚くべき内容とは・・・

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【09.7/21.UP】
スクエア  (短編読みきり小説)

彼女が居るとわかっていながらも付き合い始めた。

広告代理店を舞台に、主人公の「あたし」はチーフを魅了させるために策士にもなる。しかし、チーフの別の一面を知り・・・


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【09.6/27.UP】
しあわせYUKIちゃん (短編読み切り小説)

「楽しい時、嬉しい時、幸せに思うのはふつうのことよ。でも、そうじゃない時に幸せだと思いなさい。笑顔でいなさい。ホントに幸せでいれるから」 そんな母の教えを胸に秘め、仕事も恋も乗り越えてゆく、健気なYUKIちゃんのお話。

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【09.6/9.UP】
通い猫(短編読み切り小説)

事情で猫が飼えない人は、他所の猫を一時的に可愛いがることはできる。
飼うといろいろと面倒だと思う人は、一時的に可愛がるだけがいいのかもしれません。

美羽、36歳ひとり暮らし。
飼い主有りのオトコを、一時的に可愛がっている。


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テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

寄生木
弱いは強い。
強いは弱い。
生まれつき生命力が弱くとも
しっかり生きてゆく術(すべ)はある。
それは
強い人から、すこしだけ手を貸して貰うこと。


これは、いのちの物語です。



寄生木(やどりぎ)


「吸い込まれるような青の冬の空が好き。そして、このオークの木の葉がすべて落ちてしまうと、キレイに姿をあらわしてくる寄生木が好き」
つぐみは祈るような気持ちで寄生木を見上げていた。オークの木の近くに、つぐみは夫と2人の子供と静かに暮らしている。

寄生木(やどりぎ)とは、オークの木など他の植物から生気を吸って生息する寄生植物である。遠くから見ると鳥の巣のようにも見える。北欧では縁起の良い植物とされ、クリスマスの飾りにもよく使われている。寄生木の下で恋人同士がキスを交わすと幸せな結婚ができるとの伝説もある。

つぐみは常に寄生木と共に生きてきた。つぐみの母はなかなか子宝に恵まれず、ある日、このオークの木の寄生木の下で
「どうか宿してください」
と祈ってみたところすぐに恵まれたのだ。それからは神が宿る木として、ことあるごとに祈りを捧げてきた。
「病気が治りますように」
「命を助けてください」
「恋が実りますように」
「結婚できますように」

結婚を考えている恋人を連れてきては木の下でキスをねだってみたりした。そして願いはみごとに叶えられ、幸せな家庭を築くことができた。


そして今再び、つぐみは寄生木の下で強く祈りを捧げている。

「何とか30歳まで生きてこれました。とても感謝しています。でも、二人の子供を残して死ぬわけにはいきません。どうかお願いします」

つぐみは、“今を生きている”と感じることがとても嬉しい。夫や子供たちの服にアイロンをかけている時、そのことだけに集中する。料理をする時も心を込めて作る。毎日を丁寧に暮らしたいのだ。どうなるのか分からない未来のことや、ちょっぴり悔いている過去のことはなどはなるべく考えない。心が未来や過去へ浮遊しないよう、“今”を踏みしめている。

人は命の期限を感じると、“今”を大切にしたくなるのかもしれない。つぐみは今までにたくさんの悲しみを経験してきた。今、自分が生きていられるのは、たくさんの人の悲しみの上で成り立ってると感じている。だから、何としてでも生命を大切に繋いでいかなければならないのだ。




つぐみは超未熟児でこの世に誕生した。妊娠27週で1000gにも満たない超低出生体重児であるため、すぐにNICU(新生児集中治療室)のある病院へ搬送することになった。だが、どこの病院もNICUはいっぱいで空きがない。このままでは生命が危ない。しばらくすると、ある病院から連絡があり、状態が比較的良好な新生児の1人をNICUから外すことにして、つぐみは優先的にNICUへ入れてもらうことになった。

だが、NICUから外された子は1週間後に静かに息を引き取った。この子の母は半狂乱状態になり、つぐみの母を激しく責めた。しかし、つぐみの母も負けなかった。どんなに罵られても気丈に耐えた。
「亡くなった子は、そういう運命だったのです」
と啖呵を切ったこともある。
母とはわが子の為ならどんなことでもできてしまうものよと言わんばかりの強さを見せていた。

その後、つぐみには先天的な心臓の疾患があることが分かった。だが、NICUの中で逞しく生き抜きついに退院することができた。普通の赤ん坊のようにハイハイしたりミルクを飲んだり、つぐみ一家にとって幸せな日々が続いた。

だが、3才の頃の検診で、やはり心臓疾患のことが取り上げられ、早期に心臓移植をしなければ長くは生きられないと告げられた。しかし、この時は日本での移植が不可能だったので海外で手術するしか手立てはなかった。費用も莫大にかかる。つぐみの家は普通のサラリーマン家庭だ。諦めるしかないのだと誰もが思っていた。

すると、再びつぐみの母が立ち上がった。率先して街頭募金活動をし、多くの人の善意の金額が集まった。つぐみの父も通常の仕事とは別にバイトを掛け持ちして治療費を稼いだ。

そして、つぐみが6才の時に適合するドナーが見つかり、アメリカで手術をすることになった。費用は募金が60%、つぐみの家の家計から20%、残りの20%は借金をした。適合するドナーと言うと、まるでモノを貰うような表現だが、人が1人脳死状態で死んだのである。その貴重な命を頂くのである。

手術は成功した。その後、つぐみは脅威の回復を見せていた。小学校高学年頃には運動も普通に出来るようになっていた。だが、その頃、つぐみの父は借金の返済等の過労が重なり倒れてしまい亡くなってしまった。つぐみは、その悲しみを忘れたくて、中学に入ってからは運動部に所属し没頭した。



高校生になったつぐみは、少し物思いにふけることが多くなった。子供時代のように無邪気ではいられなくなったのである。他人の命を頂いて生きているということに重荷を感じるようになった。部屋に篭って、ナイフで腕にキズを入れてみることもあった。“リストカット”だ。赤い血が流れるのを見るとホッとした。しかし、本気で死ぬことは出来なかった。それは許されないであろうと感じていたからである。一般の人は死にたければ自由に命を絶てる選択がある。それをすることが出来ないつぐみは、ますます追い詰められていた。そんなある日、ついに耐え切れなくなっていつもよりも深くナイフを入れてしまった。つぐみは意識が朦朧となり、部屋は血の海になった。

気が付いたら病院のベットに居た。そして、目覚めると同時に信じられない出来事が起こっていた。つぐみの恋人がバイクの事故で亡くなったという知らせだった。つぐみは自分のしたことを深く後悔して泣いた。もちろん、つぐみのリストカットとバイク事故は何の因果関係もない。だが、つぐみは自分の生命と引き換えに恋人が亡くなったような気がしたのだった。これからは、亡くなった恋人の分まで強く生きてゆかなければいけないと思うようになった。



3年経ち20歳を過ぎた頃、つぐみは結婚した。オークの木の下で結婚写真を撮った。しばらく経つとつぐみのお腹には新しい命が芽生えていた。自分が生まれた妊娠27週の頃は、この子も同じ運命を辿るのかと心配したが、特に何ごともなく予定日に無事に生まれた。10歳まで生きられないかもしれないと言われたつぐみが、こうして子供を産むことが信じられなかった。つぐみは神様に深く感謝した。この日ほど生きてる喜びを深く味わったことがなかった。

1人子供に恵まれただけでも嬉しかったのに、2年後には第2子まで誕生した。つぐみは、これからもこの子たちのために生きてゆかねばと強く心に誓った。

つぐみの夫には姉が1人居たが、この義姉夫婦は何故かなかなか子供に恵まれなかった。聞いた話によると流産を2回したが、その後はいくらがんばっても妊娠しないのだという。つぐみは義姉に恐る恐るオークの木の寄生木の下で祈ると願いが叶うという話をしてみたが、義姉は迷信だと言って信じようともしなかった。



2人の子供たちも順調に成長し、結婚して9年の月日が流れ30歳になった頃、つぐみは再び命の危機にさらされていた。マンモグラフィーで悪性の腫瘍が発見されたのだ。そして周辺臓器にも若干転移が見られると言う。若いから転移も早いと言われ、医師からは命の期限を宣告された。

つぐみの母が聞きつけて遠方からやって来た。つぐみの母は、つぐみが11歳の頃に父を亡くしてから、女手一つでつぐみを育ててきた。つぐみが命の危機にさらされる度に、立ち上がってきた気丈な母である。母は5年前に再婚し新しい夫と2人で暮らしている。つぐみは苦労ばかりだった母に対し、今後は自由に好きなように生きて幸せになってほしいと願っていた。

つぐみと母は、オークの木の寄生木を見つめながら語り合っていた。
「寄生木って、寄生植物でしょ。オークの木から栄養を吸い取って育っているんでしょ。本体の木は、吸い取られていつか枯れてしまったりしないのかしら?」
つぐみがそう質問を投げかけると母は言った。
「寄生木自体もね少しは光合成が出来るのよ。ホラ、見て! 冬になってオークの木はすっかり葉を落としてしまっているのに、ヤドリギは青々と葉を生やしているじゃない! 大丈夫よ、木が枯れるまで栄養を取ったりはしないから。寄生と言う言葉は少し聞こえが悪いわね。本当は共存だと思うのよ。寄生木は誰かに支えてもらわないと生きてゆけない。でも、けして弱い植物なんかじゃないのよ。自分の特性を知りつつ、生かしながら強く生きていると言えるわね」
つぐみは、自分自身がまるで寄生木みたいだと思っていた。
「寄生木って、どうやって増えるの? だって、固い木の幹に寄生するんでしょ? それでは、こぼれ種が埋め込まれないじゃない」
「ふふふ。それはね、“つぐみ”っていう野生の鳥がね、寄生木の実を食べて枝の上で排泄するとね、そのフンに付着した種が発芽して成長するのよ」
「はっ、つぐみっていう名前、そういう意味だったんだ」
「あなたは生命を繋いでいく人なの。だから、ゼッタイ死んだりしてはダメなの!」
母の言葉の最後の“死んだりしてはダメ”がいつになくつぐみには力強く聞こえたのだった。



それから2週間後に、母は突然クモ膜下出血で亡くなってしまった。つぐみは
「どうして、どうして」
と激しく泣き叫んだ。
「母のもとへ連れていってほしい」
と何度も言った。しかし、母が最後につぐみに語ってくれた言葉を抱きしめて生きていかなければ、母に申し訳がたたないとも思ったのだった。

そして、奇跡が起こった。転移されていたはずの癌細胞がキレイに消えていたのだ。医師も現代医学では解明出来ないことだと言った。乳癌の方は手術でキレイに除去することで完治した。

つぐみは死なずに済んだ。これからも2人の子供の成長を見守っていけることが、何よりも有難いことだと感じている。
「これからも生命を輝かせて生きてゆきたい。生まれつきの生命力は弱いけど、それは自分の特性だから受け入れるしかない。父や母、たくさんの人のから頂いた生命を大切にし、時には人から手を貸して貰いながら生命を繋いでいこう」
枯木立が並ぶ冬景色の中、寄生木だけが妙に瑞々しく緑色の葉をたたえていた。

<おわり>
※このストーリーはフィクションです

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

3P 
好きなひとを一人に絞れないんです
竹を割ったような鮮やかな欲望


3 P


「えっ、紫音さんって子どもが居たんですか! ウッソー!」
焼肉店のアルバイト控え室で盛り上がっていた。控え室は男女合わせて5~6人ほど居たが、大半が高校生を含む20歳前後の人たちであった。部屋中には煙草の煙りが充満して、若者らしからぬ疲れたような退廃的な空気が漂ってていた。
「翔也って言うんだ。3才になるよ」
紫音は携帯の画像を皆に見せた。
「へぇ~っ、可愛い~い!」
女の子たちが1オクターブ高い声を発すると、紫音は先手を打ったように言った。
「今、独身だけどね」
控え室に居た人たちは、何かを納得したような、それ以上聞いてはいけないような覚ったような顔をしていた。

おそらく、紫音は若くして今流行りの出来ちゃった結婚をして、子どもが出来たらすぐに離婚してしまったというよくあるシングルマザーではないかと思われたようだ。しかし、真実は違うのだ。19歳の時に妊娠して一度も入籍せずに産んだという生粋のシングルマザーなのだ。若くしてママになると、ヤンママとかギャルママとか言われるが、紫音はヤンキーでもないしギャルでもない。見た目は黒髪のショートヘアで、服装も雰囲気も地味めだった。出勤態度も真面目で仕事もテキパキとこなし、店長からも一目置かれていた。


紫音は、この焼肉店で土曜・日曜のどちらか1日だけアルバイトをしている。そして平日は、自宅から10分ほどの半島の山あいにあるカメラ組立工場で朝から夜まで働いていた。将来のことを考えてお金を稼がなきゃ!と思ってわが息子のためにがんばっていた。紫音は両親と一緒に暮らしており、昼間働いている間は主に母親が面倒を見てくれている。夜帰宅して、真っ先に翔也と一緒にお風呂に入るのが日課だ。普段、あまり接していない分、沢山抱きしめたりして、濃いスキンシップを心がけていた。そして翔也を寝かしつけると、鏡に向かい念入りにメイクして職場に居る時とは違う雰囲気で出かけた。

車を15分ほど走らせて24時間営業のスーパーに車を停め、男の運転する車に乗り込んだ。
「いつもの所、行くか?」
「たまにはラブホ連れていけよ! まっ、いいけど」
1歳年下の恋人のヨシオとは付き合って8ヶ月ほどだろうか。自動車整備士見習いでお金がないので、もっぱらカーセックス専門だった。半島の真ん中あたりに展望駐車場があり、ここに停めてコトをなす。夜は車も少なく、かっこうの場所であった。昼間は展望駐車場から眺める海の景色が最高なのだが、夜は何も見えず波の音だけが重低音を不気味に響かせているだけだった。田舎なので夜景もいまいちであった。

「窓が曇ってるの、いかにもいやらしいことしてるみたいじゃない?」
ヨシオが運転席でジーパンを半分おろすと、紫音はヨシオのモノを取り出し口に含み丹念に愛撫した。助手席のシートを倒し、ヨシオは紫音の上においかさぶった。時おり車は小刻みに揺れていた。フィニッシュは紫音の口の中でした。妊娠に対する恐怖を持っていたからだ。曇った窓ガラスの車内の中で、殆ど半裸姿のまま二人はまどろんでいた。しあわせなひとときだった。

紫音は夜の12時過ぎまで恋人と逢瀬していても、翌朝6時にはきちんと起きて出勤の準備をしていた。若さとは凄まじいものであった。焼肉店の控え室では、女の子同士で裕太のことで盛り上がっていた。裕太とは1ヶ月前から働きはじめた23歳のイケメンで女の子たちに人気があった。
「裕太、超カッコイイ!」
「・・でもさあ、結婚してるんだよね~! 超ショック!」
「子どもも居るってさ! たしか2才くらいの・・」
「マジ・・・!」
「え~~、イケメンほど、早く売れるもんなんやな・・」
「・・・でも、不倫・・しちゃおっかな~」
「おいおい・・」
そんな会話を紫音は冷ややかに眺めていた。女の子たちも“子持ちで地味”な紫音には関係のない話よね!・・と取り合わないでいた。営業前の清掃で裕太がテーブルを拭き始めると、紫音は裕太のテーブルに近づいて行った。仕事中に男の子と女の子が二人っきりになると“怪しい~”と思われるのだが、地味で真面目に見られる紫音が相手だとそういう風に思われることはなかった。

そして、仕事を終えて帰宅し、翔也をお風呂に入れ、寝かしつけた後にいつものように出かけた。だが、待ち合わせ場所はいつもと違い、ホームセンターの駐車場であった。そして、男の車に乗り込んだ。運転席に居たのは裕太だった。
「いつものところ行こっか!」
行った先は、ネオンがけばけばしい半島で唯一のラブホテルであった。
「だいぶポイントもたまったし、ちょっと安く済むようになったよ」
このホテルはポイントカード制でポイントがたまれば5%OFF、10%OFFと料金が安くなっていくシステムなのだ。23時を過ぎて入ると泊まりの料金になるので、いつも待ち合わせの後は真っ直ぐにホテルに向かい23時前に速攻で入るカタチだった。

部屋に入ってまず抱き合ってディープなキスを交わし、お互いの服を脱がしあい浴室へ向かい一緒にお風呂に入る。紫音は一度息子の翔也と一緒にお風呂に入っているのだが、“母モード”を払拭するかのように洗い流し“女モード”に切り替えようとしていた。バスタブのお湯の中に付属品の薔薇の香りの入浴剤を入れ、お互いのカラダを丁寧に洗い合う。洗い場にあったウレタン製のマットを敷き、とろとろローションを使って軽くマットプレイをしたあと、二人はベッドへなだれ込みメインデッシュへと入った。

裕太に足をひらかされ、陰部を舐められると紫音のカラダはビクンと反応した。肉厚の花が蜜をおびてひらいていくのを感じていた。
「わたし・・は・・咲く。あなたに注がれて夜に花ひらく」
「紫音さんは、抱かれるとどうしてこんなにエロくなるのだろう」
裕太は、紫音の陰部を熱く見つめていた。
「いや・・」
と言いながらももっと見つめてほしいと思っていた。こんな時、紫音はとても愛されている歓びを感じるのだ。比べてはいけないと思ったのだが、ヨシオは紫音の陰部を見つめることはしないし、クンニをすることもなかった。軽く指を入れてかき回す程度であった。ヨシオにとっては女性のその部分は、欲望を満たすための単なる穴でしかないのだろうと思うと哀しくなった。男性の大事な部分、女性の大事な部分にお互いが興味を持ち、丁寧に愛し合うことこそ愛の真髄ではないかと思うのであった。

裕太は一般の23歳の男性よりか大人びていると紫音は感じていた。裕太と初めて出会った時、紫音は自分と同じ匂いを感じたのだ。実際、境遇はよく似ていた。二人とも若くして子持ちだし、平日は工場で働き、土日は焼肉店でアルバイトしてることも同じだった。

それから、男女の関係になることに関して壁を持たないところも似ているかもしれないと感じていた。紫音は裕太に会ったその日から彼に抱かれてみたいと思っていた。そう思ったら即行動に移さずにはいられなくなる。店の女の子たちが
「カッコイイよね! 付き合う? どうする? でも不倫だよ・・」
とささやいている間に紫音はさっさと裕太と男女の関係になっていた。

裕太は紫音に恋人が居ることも知っていた。裕太はそのことに関しては、自分にも妻が居るしお互い様じゃないかと思っていた。お互い、気が合うしカラダも合うし、お互いのパートナーと別れる気もないし相手に別れて!とも言わないし、これでいいんじゃないかと思っていた。

紫音と裕太がラブホテルから出て車を走らせていると、カーブに差し掛かった所に見覚えのある男性が居ると、紫音は一瞬感じたのだ。
「あっ、あれはヨシオ?」
ヨシオと連れの男性が車を降りて防波堤に並んで煙草を吸っていたのだ。紫音は目を合わせないように瞬時に下を向いたが、ヨシオは気がついたようだった。そして、ヨシオたちは紫音たちの車を追跡し始めたのだ。
「裕太! もっとスピード上げて! 後ろの車、何だか怪しいわよ」
裕太が100キロ近く加速をすると、ヨシオたちの車も加速し後を追って来た。
「やだ~! いつまでも着いて来るよ。不気味だわ」
そんな追跡状態が続き、半島をほぼ1周したところで通行の多い大通りに合流し、他の車に紛れてヨシオの車から離れることができた。
「後ろから追って来た車、紫音の知り合い? 昔の男とかじゃ~ないの~?」
「違う、違う!」
紫音はシラを切り通した。


次の日、紫音はヨシオからの激しいメール攻撃に遭った。仕方なく夜にヨシオに会った。
「昨夜、一緒に居た男は誰だ!」
「親戚の人よ! その人から相談事を受けていたのよ」
「ホントかぁ~?」
紫音はヨシオのジーパンの股間辺りを触れながら甘い声で耳元でささやいた。
「最近、わたしの車の調子がよくないのよ。ちょっとみてくれる?」
「・・おい、その手には乗らんぞ・・」
そう言いながらもヨシオは紫音の車のボンネットを開けて丹念に調べていた。
「ブレーキオイルを換えた方がいいぞ! 何なら今からやってあげようか?」
ヨシオの働く自動車整備工場へ行き、手際よく整備してもらい紫音の車は調子を戻した。
「ありがとう、ヨシオ! わたし、ヨシオが居ないと生きていけないわ~」
「何を大げさな!」
ヨシオは満更でもない顔をしていた。紫音は車の中でヨシオのジーパンを脱がし、ヨシオのモノを口に含んだ。そしてヨシオはアッと言う間にイってしまった。お互い服を脱ぐ間もないあっさりとしたエッチであった。

「なあ・・紫音・・」
ヨシオはいつになく小さな声でもじもじとしていた。
「もし・・よかったら・・俺たち一緒にならないか? 翔也君も一緒に・・」
自動車整備工場のすぐ裏に雑木林があり、そこに車を停めて告白をされたのだ。紫音は考えた。もしも、裕太なら丹念に愛を交わし合った後に後ろから抱きしめながら、ささやくに違いないだろうと。
「ごめん。わたし、結婚とか考えられなくって! ねぇ、このままでいいじゃん。このままではダメ?」
ヨシオはショックを隠し切れない顔をしていたが、紫音がその気になるまで待つと言っていた。そして、お互いキスを交わして二人は帰路へ向かった。

車を走らせながら、紫音はヨシオと別れた方がいいのではないかと考えていた。
「エッチは満足できないけど、車のことには詳しいしイザとなったら心強い。それにぶっきらぼうだけど、自分の言うことに逆らわないし優しさもある・・」
ということで、しばらくはこのままでいよう!という結論を出した。


翔也の3才を祝う七五三の行事で、紫音と翔也と両親は家の近くの神社に居た。周囲は夫婦連れでいっぱいであった。夫婦の仲睦まじい姿を見せつけられると、紫音は少しだけ羨ましい気持ちにもなったが
「結婚したら、ずっとダンナさんだけを愛さないといけないんでしょ? わたしには無理だわ! 結婚してても浮気してる人も居るし、場合によっては可能なのでしょうが、ものすごく気を使いそう。ヨシオとはたまに会うだけだから気軽で楽しいけど、24時間一緒だったらすごく窮屈な気がするわ。わたしはどうも気が多いみたいで、たくさんの人を好きでいたいの。A君を好きになったら、B君も好きになってしまうことがあるし、その気持ちを抑えることが出来ないの・・。好きな人を一人に絞れないんです!」
紫音はふととんでもないことを考えた。
「もしヨシオに『今日、翔也のお父さんの役をやってほしい』と頼めば、あっさり引き受けてくれるかもしれない。それで、見た目は夫婦のように見せることも可能なのよね!うん、この方法は使えるわ~!」

紫音の両親は、翔也のことを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。孫の力はスゴイ!と紫音は常々思っていた。かって、妊娠が発覚した時は早いうちにおろしなさいとも言われ、なかなか両親に受け入れてもらえなかったが、いざ孫が生まれてしまうとこうも変わってしまうものだ・・と関心していた。
「翔也はウチの大事な跡取りなんだから~! もし紫音が嫁に行ってたら、孫は嫁ぎ先に取られちゃうしかえって良かったんだよ」
紫音の夫の姿を見たことがないし、実は夫はいないのでは?と近所からの指摘があると
「紫音の夫はね、海外赴任してるのだよ」
と言って、両親は紫音のことを全力で守ってくれるのだった。

そんな両親のことを紫音はとても有難く思っていたのだが、1つだけ両親にも隠していることがあった。それは、翔也の父親のことである。当時つきあってきた人が父親であると、両親もうすうす感じているのだが、実はそのつきあっていた人が父親であるとも限らないのであった。紫音は、当時つきあってる人の親友も同時に好きになってしまい、どういう流れでそうなったのか定かでないが、“3P”をしてしまったのである。

理屈なき欲望が3人で一致してしまったのだろう。その後、妊娠をきっかけに紫音のほうから2人と離れるようになった。どちらの子どもかもわからないし、相手を責めることも悩むことも苦手だったので、一人で全てを受け止めることを選んだのだ。だが、もっと悩み苦しむのだろうと想像したことと裏腹に、この妊娠を心から喜べたことが自分でも意外だったのである。紫音は“3P”の行為を素敵な甘美なできごとだと捉えていたので、その結果で出来た子どもなのだから、自然と受け入れることができたのだろうと思ったのだ。

「欲望に真っ直ぐであることは、いいことなのかもしれない」
との紫音の価値観はこの時に生まれたようだった。
「制度などにこだわらない方がかえって素晴らしい自由を手にすること出来るし、どうして大多数の人は、この素晴らしさに気がつかないんだろう」
紫音は大胆にもそんな考えを持っていた。しかし、制度にこだわらない紫音みたいな人が、制度でガチガチに守られている人の生活を脅かすこともあるだろうと一方で感じていた。だから、なるべく脅かさないように気をつかっているつもりでいた。

七五三から帰って、その夜は裕太と逢って抱き合った。
「俺の子も来年3才だよ。すっげぇド派手な衣裳とか着せてぇ~なぁ~」
抱き合った後にまどろみながらそんな話をしていた。

後日、ヨシオに翔也の七五三の携帯画像を見せると
「言ってくれれば、お父さん役をやったのに~! ま、いつでも言ってくれよ。お祭りの時だって、幼稚園の運動会だって行ってやるからな~! あ、そうそう、翔也の弟か妹とかはいらないの? やっぱ兄弟は考えたほうがいいんじゃない?」
「アホぉ~!」
紫音はそう言って、ヨシオのおでこを軽く小突いた。

<おわり>

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【前世物語②】マリアンヌの罪 (前編)
作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?


【前世物語②】 マリアンヌの罪(前編)


時は中世フランス。

セーヌ川のほとりは、洗練された街並みだが、一歩路地裏へ入るとそこは悪臭に満ちていた。そんな貧民街でマリアンヌは私生児として産み落とされた。マリアンヌの母は男出入りが激しかった。
「男を繋ぎとめるためにアンタ(マリアンヌ)を産んだのに! この役立たず!!」
そう言って母はマリアンヌを罵倒した。だが、肝心な男の心を繋ぎとめることは出来なかったようで、マリアンヌは物心ついたときから“父親”の存在を知らなかった。そんな母の言葉聞いてマリアンヌは思っていた。
「へぇ~! そんな考え方もあるんだ~! 男を繋ぎとめるために妊娠して男の子どもを産む。そんなやり方もあるのね~!」
マリアンヌは恐ろしいくらいに冷静な子どもだった。
「アンタを産んでおくと何となくお得な気がしたのよ! だから産んだのさ! ハッハハハ~」
母は自嘲気味に笑ったが、冷静なマリアンヌにもその言葉の意味はよく分からなかった。

母が男を連れ込む度に、マリアンヌはこっそり家を出てセーヌ川で一人遊びをしていた。周囲はカップルでいっぱいだった。そんな中、糞尿を川に捨てる者も居た。熱い男女の抱擁と糞尿の悪臭が混在する世界に、幼いマリアンヌはくらくらしていた。だが、次第にそんな光景にも慣れていった。

母は男とうまくいかないとヒステリックに怒鳴りちらしていた。が、貧しい暮らしの中でパンが手に入ったりすると、母は幸福そうに笑いマリアンヌにも優しかった。そんなひとときがマリアンヌは好きだった。どうしょうもない性格の母ではあるが、マリアンヌは母の傍にずっと居たいと思っていたし、かけがえのない存在だと思っていたのだ。


マリアンヌが10歳になった頃、母に連れられてセーヌ川のほとりにある大聖堂(教会)に来ていた。
「すっ、すごーい」
マリアンヌは教会の建物の内装の豪華さに無邪気に歓声をあげていた。そして、やや年配の修道女と引き合わされたのだ。マリアンヌは修道女の柔和な微笑みにえも言えぬ安らいだ気持ちを覚えた。

だが、マリアンヌはすぐに事態を察した。母はマリアンヌを捨てようとしていたのだ。母は最近付き合い始めた男と結婚をするために、マリアンヌを教会に預けようとしていたのだ。しかし、マリアンヌはあっさりと教会行きを決断した。
「教会へ行く方がマシなような気がしたからよ。仮にごねて母の男の元へついて行ったとしても、幸せになれっこはないと思うわ!お荷物になるだけだし。母と離れ離れになるのは辛い。だけど、教会で暮らしてみたいわ! 修道院のおばさんもすごく優しそうな人だったし」


次の日から、マリアンヌは修道女の修行の日々が始まった。しかし、マリアンヌはそれを嫌だとは思わなかった。文字の読み書きを覚え、夢中で聖典を読みふけった。清掃や数々の奉仕活動も嫌がらずに取り組み、むしろ喜びを見出していた。パンと水と時々チーズが付くだけの貧しい食事ではあるが、毎日食べられるだけで幸せなことだと思っていた。母と暮らしていた日々とは全く違い、全てが新鮮で輝やかしかった。

修道女たちの生活は結構忙しい。毎日神に祈りを捧げているだけのゆったりした生活だと思われているが、とんでもない。おびただしい数の聖典を読み勉強し伝道活動をしたり、ハーブや伝承医学を施して多くの人々を救いに導いたり。又、縫い物や刺繍をしたり、パンやチーズや保存食を作り売ったりして、それらは修道院の収入源ともなっていた。さらに、教会と併設の孤児院などの子ども達の世話もあったので、朝早くから夜遅くまで働きづめで睡眠も満足に取れないくらいだった。もちろん、祈りや儀式の時間も欠かさなかった。



慌しく日々は過ぎ、マリアンヌは17歳になっていた。

ある日、お使いを頼まれてセーヌ川のほとりを一人で歩いていた。外を出歩くのは久しぶりで羽をのばしたような気持ちになっていた。周囲は愛を交歓しあうカップルで一杯だった。マリアンヌはその光景を微笑ましく眺めならがも、どこか羨ましさが募ってくるのを隠せなかった。通常なら、マリアンヌとて恋の1つや2つ覚える年齢であろう。しかし・・
「私は修道女だから!!」
キッパリと言い放ち、背筋を伸ばして周囲を見ないようにして早足で歩き始めた。

修道女(士)は、基本的に恋愛・結婚・性交渉はご法度である。しかし、マリアンヌも年を重ねるごとに修道院の嫌な部分も見えてくるようになった。恋愛は禁止と言われながら、“恋心”をつらつらと語る修道女も少なくなかった。ただ、この場合は片想いのみが殆どだったのでまだ良かった。だが、中にはこっそり性交渉まで持つ者も居て、周囲は見て見ぬフリをしながらも興味本位な噂話になっていた。

修道女の模範生と言われていたマリアンヌは、こういう類の噂話は大の苦手だった。潔癖な性格もせいもあったが、“いいかげんな人間”を知ると母を思い出し嫌な気分になるからだった。マリアンヌは母のようにはなりたくないと思っていた。しかし、実際には恋愛に憧れる気持ちも少しは持っていたが、その気持ちは抑える方向へ持っていった。


日々が経ち、マリアンヌが20歳になった頃、今までの働きぶりが認められ修道女として“高い位”が与えられると言う話が持ち上がった。

だが、マリアンヌは素直にその話を喜べず、考え込んでしまったのだ。
「修道女の仕事は好きだし、やりがいもあると思っている。でも、その“位”に就いてしまったら・・、もう一生・・本当に一生涯・・神に捧げる人生となる。本当にこれでいいんだろうか?」
マリアンヌは1度こうと決めたら貫きたい性格である。マリアンヌは、生涯恋愛も結婚もせずに本物の修道女の道へ進むという方向に、迷いを感じ始めていた。

マリアンヌは生まれて初めて“迷い”というものを知った。母から修道院へ連れて来られた日ですら、一寸の迷いもなく鮮やかに決断したものだったのに。迷いにさいなまれる苦しい日々が続いたが、とうとう決断を下さなければならない日が近づいた。

<前編終わり・中編へ続く>


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【前世物語②】マリアンヌの罪(中編)
作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?


【前世物語②】 マリアンヌの罪(中編)


夜も白々と明ける頃、マリアンヌは一人セーヌ川のほとりをとぼとぼと歩いていた。
「取り返しのつかないことをしてしまった! でも、もう後には引けないわ」
修道服ではなく、粗末な継ぎ接ぎだらけの木綿のワンピースを身に纏い、何処から見ても“町娘”といったいでたちであった。マリアンヌは修道院を脱走したのだった。

その後、マリアンヌは路上で声をかけてきた中年男と一緒に暮らした。男の名をジョーと言った。マリアンヌはジョーに抱かれ“女”になった。
「一度でいいから恋がしたい! 性行為というものをしてみたいと思っていた。一生涯恋のない人生なんて嫌だ!なんて思ってしまったわ。ああ~、嫌だ。わたしにはやはり母と同じ血が流れているんだわ」
ジョーはマリアンヌの生い立ちを聞いて驚いていた。
「何て酷い母親なんだ! 自分は好き勝手に散々“女の悦び”を謳歌しておきながら、娘にはこんな辛い想いをさせて! 逃げてきて正解だよ。ああ~、アンタ、こんなに細い体・・可哀相に。修道院ではロクに食べさせてもらっていなかったんだね」
そう言ってジョーはスープをこしらえに行った。ジョーは料理が得意で面倒見の良い男だった。
「あんなに憧れていた性行為だったけど、やってみたら思ったほどでもなくて“こんなもの?”って思ってしまったわ」
マリアンヌは、生きてゆく為にジョーに恩を感じ慕っていたが、恋愛とは違うものだろうと思っていた。


それから数年が経ちマリアンヌは領主の妻になっていた。

領主と恋に落ちたが、マリアンヌは自身の身の丈をわきまえていたし“愛人”の立場で結構だと思っていた。だが、領主の強い希望で“正妻”として迎えられたのだ。

正妻になれた理由として、小さい頃から修道院で過ごしてきたお陰で、読み書きはもちろん、礼儀作法、聖典の知識、忍耐強さを身につけていたからだろうと自己分析していた。
「私は貴族の女は自己主張が強く傲慢で好きになれない。マリアンヌのような控えめで素直で純粋な女が好きだ」
領主はそう言い、本来なら貴族の娘と政略結婚する予定を突っぱねてまでマリアンヌを選んだのだ。領主の母親も最初は結婚に反対したが、マリアンヌの人柄に好感を持ち序々に認めていったのだった。

マリアンヌは懸命に貴族社会に慣れようと努めていた。連日のようにパーティが続いたが、マリアンヌはパーティが苦手だった。慣れない世界で緊張して楽しめる余裕など全くなかったのだ。パーティよりも一人で本を読む方が好きだった。しかし、そんなマリアンヌの気持ちをよそに、領主は何処に行くのもマリアンヌを連れ立って行った。マリアンヌは、磨かれてドレスの似合う美しい女性に成長していた。それが領主にとっても自慢だったのだ。マリアンヌの控えめな性格は、意外や貴族たちからの評判が良かったのだ。

領主と共にパーティ会場へ出かける途中、マリアンヌは馬車の中から見えた景色に突然の息苦しさを覚えた。それは、自分が10歳から20歳で脱走するまで生活していた大聖堂が目の前にそびえ立っていたからだ。修道女たちの姿が目に入って来ると、強い罪悪感にさいなまされた。修道女たちは一生涯、ドレスにも美味しいご馳走にも愛し愛される歓びにも縁がないのだ。そう思うとマリアンヌは申し訳ない気持ちになった。特に、女として愛される歓びを知らずに生きるなんて
「なんて可哀相!!」
だと思っていたのだ。

修道院に居た頃、修道院の生活に不平不満を愚痴る人も少なくなかった。
「不満ばかり言うくせに何も行動を起こそうとしないじゃない」
かってマリアンヌはそんな人たちにイラ立ちを覚えていた。嫌になったから脱走したという明確な理由で行動を起こしたマリアンヌは、自分で人生を切り開いたという自負があった。
「自分は間違っていない」
そう言い聞かせていた。神様からの天罰が下るだろうという罪悪感な思いより、修道女たちの鬱積とした“呪い”の方が怖いと震えてしまうのだ。

マリアンヌは気を取り直してパーティを楽しもうと思ったが、相変わらず社交術が不得手で心底楽しめないでいた。常に食事やダンスなどの作法が間違っていないか気を使うばかりだった。上っ面なことばかりを言う会話も苦手だった。
「今は、修道院よりは自由な世界に生きてるのかもしれないけど、貴族社会も窮屈で修道院とたいして変わらないかもしれないわ」
マリアンヌは声にならない声を発していた。
「貧乏上がりのクセに!」
貴族たちの中から中傷を浴びせられることも多々あったが、マリアンヌはそのことに対してはあまり気にならなかった。その通りだと思っていたし、それに数は少ないが“仲間”の存在があったからだ。

この時代フランスは確かに貧富の差は激しいが、一方で庶民の娘から貴族社会へ見初められて“成り上がる者”も少なくなかった。貧しい生まれだが、美貌と手腕のみで国をも動かす位の権力を振るう女傑さえも存在していた。マリアンヌと同じ境遇の夫人同士で集まってサロンを開いては、情報交換をしたりストレスを発散させていたりしていた。

サロンに集う夫人の中には、第2夫人、第3夫人などの“愛人”の立場にある人たちも少なくなかった。だが、このサロンでは正妻も愛人も関係なく分かち合っていた。何故そんなことが出来るのか? 貴族社会においては、正妻の立場にいる人は“夫に愛人が出来た位でガタガタ騒ぐのは往生際が悪い”と教育されていたからだ。正妻には正妻のプライドが有り“愛人?別にどうってことないわよ”という態度を示すことが多かったのだ。だが、正妻だろうと愛人だろうと心に潜む辛さは同じであり、そこの部分は女性同士分かち合えることが可能だった。もしかしたら、貧しい境遇の出身同士だからこそかもしれないが、実際には正妻対愛人の激しい対決が見られることもあった。

「お世継ぎ問題がね、重くのしかかっているわ・・」
最近のサロンでの話題である。マリアンヌとて例外ではなかった。嫁いで数年になるが一向に懐妊の気配がなかった。しかし、意外と疎外感なく過ごせていたのだ。何故なら、貴族の夫人には子どもに恵まれない人が何故か多かったからだ。ようするに“仲間”が多かったのだ。だが、正妻に子どもが出来なければ愛人につくってもらうというのも貴族での掟だった。

マリアンヌは思い切って領主に言ってみた。
「嫁いでかなり時間も経つけど、一向にお世継ぎに恵まれません。そのことがとても心苦しいのです。どうか、愛人をつくってお世継ぎをもうけてください。お願いします」
すると、領主はやや怒ったような口調で言った。
「何を言ってるんだマリアンヌ! 私は愛人など持たぬぞ!!」
「な・・なぜ・・です?」
「私はマリアンヌを愛しているのだ! ただそれだけだ!!」
領主は荒々しい物音を立てながら部屋を出て行った。領主の言ったことは本当で、それから後も愛人を持つことは一切しなかった。

ある日、サロンの常連だった夫人が全く顔を見せないようになった。噂によるとその夫人は懐妊をしたらしいのだ。だが、嫌な噂が蔓延していた。
「あの人、ずっーとできなかったのにさ、あの年で突然だよ! なんかオカシイわよ」
「夫の子じゃないらしいわ。あ、ここだけの話よ」
「あの人も、“その手”を使ったのね」
“その手”とは、近年の王家又は貴族社会で密かに流行ってることで、夫人が夫以外の男から“種”を貰い、懐妊を試みるという方法だ。王家もその方法をつかって危機を脱したと噂になっていた。不妊治療など無かった時代、積極的にお世継ぎをつくる方法は、まず妊娠しやすいと言われるハーブなどを服用することだった。それでもダメなら、夫の愛人に産ませるというのが一般的だった。だが、全ての貴族の男性が“やり手”というわけでは無かった。中には女性に消極的な“甲斐性なし”の夫もおり、よく言えば“優男”なのだが、このままでは子孫を残せないと危機感を持った夫人たちが、こぞって思い切った行動に出たりしたのだ。

マリアンヌを始め、他の夫人たちも興味本位に聞き入っていたが
「そんな、そら恐ろしいこと、絶対に無理だわ!」
そんな風に一致していた。

パーティなどではマリアンヌも他の男性から口説かれることが多々あった。貴族社会では“不倫はスマートにせよ”との掟もあった。もちろん表向きは不倫などご法度なのだが、隠れていそしむ人たちもかなり存在していた。マリアンヌはラブアフェアが不得手なため、口説かれてもいつもやんわりと断り続けていた。


月日が流れ、突然の訪問客にマリアンヌは驚愕していた。

10歳で生き別れになった母と、母の子どもと見られる3人の子どもが目の前に立っていたからだ。

<中篇終わり、後編へ続く>

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【前世物語②】マリアンヌの罪(後編)
作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?
怒涛の最終編です。


【前世物語②】 マリアンヌの罪(後編)


「へぇ~、やるわよね~。あんた、一体どういう手を使ったんだい?」
マリアンヌの母は高笑いをしながら、室内の調度品などを吟味していた。マリアンヌは母との再会を嬉しく思うよりも困惑気味だった。そして、もっかの関心事は母が連れて来た3人の子どもたちであった。子どもたちはいずれもみすぼらしい身なりをしていた。一番上と二番目の子は10代後半くらいであったが、一番下の子は未だ幼児であった。
「私らはろくに食べることもできず、瀕死寸前なんだよ。娘なら何とかすべきでないのかい」

母はお金を無心に来たのだと、マリアンヌもすぐに察した。マリアンヌは母を見下すようにして数枚の金貨を渡した。マリアンヌは一番下の子に微笑みかけ触れようとすると
「何するんだい! その子は渡さないよ!」
母は人身売買と勘違いしたようであった。
「あんた、お世継ぎは出来たのかい?ハハハ~、金持ちも大変だね~! 出来ないから、この子がほしいんだろう。でもこの子は絶対に手放さないよ。だって、あたしの子の中で一番可愛いからさぁ~ふふん」
マリアンヌは母のこの言葉にカチンと来た。そして、母に捨てられた過去などが走馬灯のように蘇ってきたのだ。
「何故、このようないいかげんな女に神はポコポコと子を授けるのさ!」
マリアンヌは悔しさで泣きそうになりながら心の中で吐き捨てた。そして、母には定期的に送金をするからと約束をして、母たちを追い出した。


母の訪問以来、今まではぼんやりとしか考えていなかったお世継ぎ問題が現実味を帯びて浮上し、マリアンヌは心を掻き乱される苦しい日々を過ごしていた。そして、その問題をなるべく忘れようとするために領主の仕事を積極的に手伝った。自分たちの領土の生産率を上げ領民の生活を向上させるため、夫婦で一丸となって仕事に奔走していた。だが、仕事に疲れると、つい母の言葉を思い出してしまうのだ。
「金持ちはいいよね~! あ~あ、私も金持ちの男を捕まえて贅沢してみたいよなぁ~」

「金持ちには金持ちの苦労があること! 分かろうともしないで! 私たちが忙しく働いてる間にも、あの女は私のお金で男と遊びほうけているに違いないわ~!」
マリアンヌは沸々と沸き起こる気持ちを静めようとして、“心を静めるハーブティー”をつくってもらい一気に飲み干した。

貴族の夫人たちで定期的に開かれるサロンも、次々と新しい形が取り入れられるようになった。最初は女たちばかりの密談という形式であったのが、しだいに音楽家や舞台作家などの芸術家の男性を多数招くようになり、色めき立ったものになっていった。近年流行していたものに“マスカレード(仮面舞踏会)”というものがあった。マスカレードは仮面を着けて座談会や舞踏会を行うというもので、普段なかなか本音を話せない貴族たちの間であっという間に浸透していった。

社交術が苦手だったマリアンヌも、仮面を着けると不思議と会話が出来るようになり、その楽しさを覚えて頻繁に足を運ぶようになった。そして、男と女のウィットな会話も楽しめるようになっていった。しかし、どんなに口説かれても肉体関係に持っていくことは避けようとしていた。
「会話の上でラブアフェアを楽しむだけ」
“不倫はスマートにせよ”という貴族の掟を頑なに守ろうとした。かって修道女だったマリアンヌには“罪悪感”という概念が強く、それが暴走を防ぐ手立てになっていたのだ。


日々が過ぎてゆき、マリアンヌは30代の半ばにさしかかろうとしていた。領主の提案で、お世継ぎは養子をたてようと動き始めていた。マリアンヌもその提案を受け入れつつ、しかし、どこか諦めきれない想いをも抱いていた。何故なら、自分の母がこの位の年齢でも子どもを産んでいたからだ。
「ひょっとしたら・・まだ・・いけるのかもしれない・・」
マリアンヌは年齢的に最後のチャンスだと思っていた。できれば自分で産んで、領主らを喜ばせたいと思っていた。

「そろそろ母に送金する時期だわ・・」
マリアンヌはとうとういてもたってもいられなくなった。領主はしばらく留守である。マリアンヌはいつもよりも念入りに着飾って馬車を走らせ、マスカレードの会場へ向かった。そして、マリアンヌはかねてから口説かれていた男性の想いを受け入れるむねを伝えた。男性は驚いていたが、お互い仮面を着けたまま別室へ消えていった。

「母だって、いつも男にだらしなく、父親が誰かも分からないような子を次々と産んでるわ。・・だから、普段真面目に生きている私が少々なことをしたって・・罰は当たらないハズよ」
マリアンヌは心の中で煮えたぎっていた。その想いが大胆な行動へと走らせてしまったのだ。


数日後、マリアンヌは領主に刺されて死んでしまった。

マリアンヌは、魂が肉体からスーッと抜け出すのを確認し自分の亡骸を天上から眺め、死んだことをすぐに覚った。

「ごめんなさい。悪いのは全て私です」

領主は、マリアンヌの亡骸にすがりつき大声を上げて泣き叫んでいた。領主はついカッとなってやってしまったことに、いつまでも後悔していた。



<母の想い>

送金とともに娘の訃報も知らされることになったマリアンヌの母は、裏通りの酒場で一人酒に浸っていた。
「本当にあの子は・・、昔っから要領の悪い子だったよ。何で・・もっと上手くやれなかったのさ! 本当にツメが甘いんだから!」
「娘の金で飲んでおきながらよく言うよ! 今日という今日こそは、ツケを全部返してもらうからねっ!」
酒場の店主の老婆は眉間に皺を寄せながら、厳しい口調でマリアンヌの母をなじった。母は遠い目をしながら、回想を始めた。

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マリアンヌよ、子どももつくらずに結婚ができて夫婦関係も保てるなんて!いったいどうしたらそんなことが可能なのだい。・・愛されていたんだね。すごいね。そんなこと、母には真似できないことだよ。母はいつも愛される為に必死だったよ!なのに、男はいつも逃げてゆく。永遠の愛を得るには、むしろ子どもなんて・・つくらないほうがいいのだろうか?

けど、マリアンヌ、あんたが出来たときの悦び、あれは本当に幸福だったんだよ。あんたの父もたいそう喜んでくれたよ。お腹に宿ってからは、あの人(父)もこれまでになく優しく接してくれたし、何より“愛”を実感することができたのさ! ホラ、愛ってカタチの無いものだろ。その愛をダイレクトに体感できるのが妊娠だと思っていたし、愛の結実だとも思っていたのさ。しかし、それは単なる錯覚なのかい・・・?

修道院へ入れたこと、さぞかし怨んでいただろうね。たしかに、母としては酷い仕打ちだよ。しかし、幸福になりたかった。いつまでもこんな貧しい生活をマリアンヌにもさせていたくはなかったし、できれば皆が幸福になれるのが望ましいと考えた。今度こそちゃんと結婚をして、この悲惨な生活から脱さなければ・・と母も必死だった。

愚かな話だと思うが分かっておくれ。マリアンヌはちゃんとした身なりをすればかなり器量のいい子なのだよ。日増しに美しく成長してゆく。だからこそ怖かった。新しい父がマリアンヌに手をかけてしまわないか・・考えただけで身震いがしたのさ。マリアンヌだけは、母と同じ人生を歩んでほしくはなかったのだよ!早い時期から男を知り、男から男へ渡り歩くような人生にはさせたくない。それは幸福から遠のくことだから。母とは正反対の折り目正しく清らかな女性として生きてほしかったから、修道院へ入れたのだよ。孤児院へは入れたくなかった。あそこは人身売買が横行してるから、マリアンヌのような子はすぐに標的にされちまうだろう。

分かってくれるか? ・・分かってはくれないだろうなぁ。これでも精一杯の母の愛のつもりなのだよ。あの子を魔の手から守ってやりたかった。男にいいように汚されるだけの悲惨な人生にだけはさせたくなかった。

修道院の生活は辛かったであろう。しかし、その生活のお陰で貴族と結婚することができたのではないのかい? でも、修道院が辛かったら、いつ逃げ出してもいいと母は思っていた。やっぱり逃げ出したようだけど、それでこそわが娘だよ! あんな所、いつまでも居る所じゃないよ。生きるためには、利用できるものは利用しなくっちゃ!

久しぶりにマリアンヌに会えたときは嬉しかったよ。綺麗だったなぁ。ルビー色のドレスが似合っていて、気高くてわが娘ながら眩しかったよ! けど、あんたは迷惑そうだったね。まあそりゃそうだろう。娘に頼らなきゃならないことほど情けないことはなかったけど、子どもも抱えてるし色々と言ってられない。会える口実ができると思って喜んだよ。まさか定期的に送金してくれるようになるとは思ってもみなかったよ。そんなことは、さすがに頼めないと思ったからさ。やっぱりなんやかんや言って母のことを想ってくれていたんだね。優しい子だよ。しかしその優しさが仇になるなんてねぇ・・

しかし、不思議なもんで、金持ちほど子どもってのは出来にくいものなんだねぇ。いいもん食ってただろうに。母なんか食うものも満足に食えないのに、次々出来ちまうよ。今思えば、一番下の子をマリアンヌにあげとけばよかったよ。マリアンヌのことを好いていたし、この子もそのほうが幸せだったかもしれないし。・・なにより・・マリアンヌが死んじまうようなことには・・ならなかったかも・・しれないのに・・

ああ~、これから・・どうやって生きていけばいいんだよ・・・



そう言って、マリアンヌの母は泣き崩れていた。
「アンタは、どうしていつも人から幸せにしてもらおう・・って考えるのさ! 男からも、子どもたちからさえも!」
酒場の隣のカウンターで飲んでる男がそう声をかけてきた。
「あたしの話聴いていたのかい!」
「ワシは、アンタを幸せには出来んぞ! ただし、いい話だったからここはワシが奢る」
男はマリアンヌの母の肩に手をまわした。母は女の顔になって男の肩にもたれ掛かった。

<END>

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【1話完結型シリーズ小説】婚外片思い 『ダンナの友だち』
しあわせな家庭の奥さんと言われています。

でも、こう見えても、人知れず恋してます。
そして、勝手に苦しんでいます。


婚外片思い 『ダンナの友だち』
※このストーリーはフィクションです


こう見えても、けっこう恋愛体質なのだ。

誰からも信じてもらえないけど、わたしはそう思っている。そういう体質でなかったら、こんなに苦しむことはないのに。

わたしは今、死にたいと思っている。

えっ、たかだか失恋くらいで死ぬなんて・・って、笑わないでね。これは経験した人なら分かることかもしれない。実際には死ななくとも、死んでしまいたいような気持ちになってしまうのだ。だって、恋は命掛けだもの。それが絶たれるということは、生命線が切れる程の辛さを味わうことなのだ。

わたしは、このような叫びにも似た気持ちを年下の友人の真奈に携帯メールで訴えた。「死にたい」と送信すると、真奈は困った風だった。そして、一生懸命にわたしをなだめる。どこか泣きそうな風でもあった。真奈は恋を知らない。恋人いない歴27年と言ったことがあった。だからこそ、わたしは真奈に打ち明けたのかもしれない。真奈はウブなので、わたしを見下すようなことはしないし、一生懸命にわたしを慰めようとしているところが可愛くも思えた。

「佑子さん、死ぬなんてことはしないで・・、お願いだから・・。その、ダンナさんの友だちは、佑子さんのことを嫌ってるわけじゃないんだから!」

ふふふ・・。真奈ったら、モットモらしことを言っちゃって。そう、ダンナの友だちの憲太が、わたしのことを嫌ってないことぐらいは知ってるのよ。ただ・・「友だちのままでいい」とあからさまに言われたことがショックなのであって・・・


わたしこと「佑子」は、37歳、二十歳の時に結婚したから結婚17年目になる。高校生になる息子が一人居る。わたしはダンナからひと目惚れされて付き合って結婚した。結婚の翌年には息子にも恵まれ、「初恋の人と結婚できるなんて幸せなことよ」と、人も羨むように思われていた。ダンナはわたしよりもひと回り年上で、安定した職業に就いているし、優しいし、確かに恵まれた生活とも言える。

しかし、結婚してしまったら、恋はしてはいけないのでしょうか?

わたしのように早く結婚してしまった人が、恋の虫がおさまるとは言い難いと思う。周りの人は、何度も恋して付き合って、今度こそ結婚!・・って思われても、なかなか上手くいかなかったりする。わたしも、恋を味わっていたいのなら早く結婚すべきではなかったと思った。

結婚してから、最初に恋を覚えたのは25歳のとき。
わたしは生まれつきの持病があって、病院に通っていたのだが、この年の時に主治医が変わったのだ。その主治医はわたしより5歳年上でダンナよりも若い。わたしったら、苦しいような胸の高鳴りを感じてしまって、その症状を訴えた。

主治医は笑っていたが、わたしは真面目に恋に落ちてしまったのだ。ダンナに悟れらないように嬉々として病院に通っていた。しかし、主治医は恋とか男と女とかの意識を避けようとしていた。友人のように親しく接してくれたけど、やはり医者と患者ででしかなかったのだ。しかし、どの患者よりも一番わたしに親しくしてくれたとの自負があった。自意識過剰だったのかもしれない。わたしが一人で勝手に盛り上がったことが、後で恥ずかしくなった。

主治医がわたしの想いを受け入れてくれなかったことで(当然だけど・・)、わたしは持病がさらに悪化してしまった。ダンナは心配して「あの医者はヤブ医者だ!」と怒り、もっといい病院を調べてくれた。そして、その病院のクスリがよく効いたようで、わたしはだいぶ平常心を取り戻していった。


その後もパート先が変わる度に胸が高鳴る男性が現れては、一人盛り上がって立ち消えになっていた。・・というより、主治医の件以来、わたしは恋に臆病になってしまって、自分から自分の気持ちを訴えるようなことはしなくなったのだ。片想いで十分。一時だけ幸せな気持ちに浸れたらそれで十分。そう、自分に言い聞かせてきた。


ある日、ダンナが職場の同僚を家に連れてきた。同僚は憲太と言い、プライベートでも家族ぐるみで親交するようになっていた。憲太はダンナよりも8歳年下の独身で、わたしと同世代で話が合いやすかった。憲太はわたしの好きなタレントにどことなく似ていた。そのこともあって、しだいに憲太に惹かれていくようになった。

しかし、どこに行くのもダンナと、あるいは息子と一緒で、グループ単位でいつも行動していた。内心、ダンナが何処かへ消えてくれればいいのに・・とさえ思っていた。ダンナがトイレなどで席を外したときは、チャンスとばかり憲太に近づいていた。憲太もそれを嫌がらない風だったので、自分に気があるのでは・・とも思っていた。

わたしは思い切って、お酒の勢いも手伝って憲太に、今度二人っきりで逢いたいと訴えた。

しかし、憲太は・・・それを拒んだ。理由は「あなたのダンナさんに申し訳ないから・・」だった。


それから、それ以来、憲太に会うことを避けている。ダンナからは不思議がられているが、体調が良くないから・・との理由で拒むようにしていた。わたしはウツ状態になり、食欲も無くなり、家から一歩も出ない日も多くなった。「死んでしまいたい」とも思うようになった。

そして、いたたまれず真奈に訴えたのだ。

「そのダンナさんの友だち(憲太のこと)って、マットウじゃない!!」

真奈はそう言ったが、ハイ! 全くその通りだ。わかっているのだ。憲太は、人妻に誘われて手を出すようなオトコでは無かった。とても誠実でマットウである。そのマットウさが憎たらしい。愛があるからこそ覚える憎たらしさなのだ。そして、真奈もマットウなことを言う。無理もない。恋をしたことがないからだ。だからこそ、真奈を選んで話したのだ。変に恋愛経験豊富な人からの説教じみたことは、今は聞きたくはなかった。

「佑子さん、とにかく、ご飯だけは食べてね。そして、死ぬなんて言わないで・・マジで皆が心配するからさあ・・」

最後に真奈はそう言って、携帯でのやりとりを終えた。心配してくれるのは心から有難いことだと思った。でも、実際には死んだりはしないだろう。いや・・死ねない。息子を残しては死ねまい! 恋モードから急に生活モード、いや、母モードになって冷静になった。純粋な真奈は、今頃真に捉えて混乱してるかもしれない。そう思うと、真奈に申し訳ない気持ちになった。しかし、人に訴えることで、わだかまりが消えてスッとする部分はあるのだ。自分はいつも人に助けられてるなぁ・・と思った。

やだ・・これ、わたしの・・顔・・?

ふと、鏡に映った自分の顔を見て思ったのだ。そこには、ノーメイクで肌もカサカサで髪も乱れた“おばさん”が映っていた。認めたくないけど、認めざるを得ない。紛れもない自分。わたしはいつまでも若いつもりでいた。童顔と言われていたので、年を取っている自覚が無かったのだ。気持ちはいつも、二十歳前、ダンナから一方的に見初められた時のままの状態だった。

そういえば、お化粧ってずっとまともにしていなかった。オシャレも。憲太と居るときもいつも普段通りのままだった。それでいいつもりだった。

このままでは、いけないかも・・

もし、わたしがもっと綺麗な人妻だったら、憲太の態度も違っていたかも? 等身大の自分を受け入れることは結構辛いことだ。今まで、それを見ないようにしてきたのだ。勝手に片恋をすることで、現実逃避をしていたのかもしれない。

真奈は恋はしたことがないけど、いつも化粧品とか洋服とかに興味を持っていた。それが、本当は女性としてしかるべきの姿であろう。わたしは、久々にファンデーションを取り出して顔に塗ってみた。シミとかクスミとかがカバーできるし、37歳の自分、まだまだイケるのではないかと思った。そして涙が溢れ、化粧どころでなくなった。

テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【前世物語①】モロッコの悲愛 ~一夫多妻から純愛へ~
作者のsakuyaが前世療法を受けた時に見えたストーリー。
これは、ノンフィクションか? それともよくできた幻覚(ファンタジー)か?


【前世物語①】モロッコの悲愛 ~一夫多妻から純愛へ~


果てしなく続く砂漠の中に忽然と現れる集落。今から数百年前のモロッコのとある街に、砂ぼこりが風に舞う度、咳き込む男が居た。それは、おそらくその男の持病であろうか。男の名前はマサラと言った。中肉中背で、黒髪、浅黒い肌、アラブ系の人らしく彫りの深い顔立ちの中年男だった。ベールのようなものを頭から被り、革の靴を履いていた。

場面が切り替わった。
喧騒の街。入り組んだ迷路のような路地。気が遠くなるようなモザイクタイルの道と建物。同じ道を何度も行ったり着たり。嗚呼~、人生そのものが迷路なのかもしれない。

その路地の突き当たりにマサラの家があった。
パティオ(中庭)のある家に住んでおり、裕福層の証だった。部屋には、ピンクや赤や様々な文様の鮮やかな布が飾られていた。特に、様々な色のシースルーの絹の布が何層にも重なる様はたいへん美しく、この世のものとは思えない幻想的な世界をかもし出していた。

マサラは布を扱う商売をしていた。
現代でいうアパレル産業であろうか。商売はうまくいっていた。

マサラが最も栄華を誇ったと思えた時代の風景。
縦長の大テーブルで、大人数の家族が楽しそうに食事をする。沢山の子どもたちの笑い声が絶えない・・

大人数の家族? 沢山の子どもたち?
・・そう。マサラの家庭は一夫多妻の形態をとっており、妻は数人居た。そして、その妻たちに産ませた子どもたちが大勢居たのだ。

この国のこの時代、一夫多妻はめずらしいことではなかった。
何故、マサラは一夫多妻の形態を選んだのか? 女好きだったからか? いいえ、マサラの答えは“人助け”だった。この考えは、おそらく女性たちから理解されないだろうと思うが・・

この時代は貧富の差が激しく、マサラは、救済の意味で貧しい家の女性たちを積極的に輿入れさせたのだ。マサラは妻たちを平等に扱うために、正妻と愛人との区別をつけなかった。女性たちは、全員“妻”の身分だった。
第1夫人、第2夫人・・との呼称はあったが、単に輿入れの順番であった。

夫婦関係はどうだったのだろうか? 
妻たちには、いつもきらびやかな衣裳を身につけさせていた。だが、マサラが言うには、「愛は無かった」。ただ、“情”のようなものはかろうじて存在していた。では、マサラにとっての家族間の幸福は?と言うと、それは“子ども”の存在だった。全員の妻に、マサラとの子どもが存在していた。子どもは全員、無条件に可愛がっていた。そしてマサラは、「女は、子どもを産み育てることが最も幸せなことだ!」と信じて疑わなかった。


それから数年経って、人生の大転機が訪れた。

マサラの商売が破綻したのだ。マサラが40代の半ば位の時だった。
マサラは破綻の原因は自分にあると、激しく自分を責めていた。マサラは、数人の仕事仲間から激しく責められ、全ての責任を自分が取る形になった。

家庭の方も破綻した。マサラは妻たちに財産を平等に分け与え、実家へ帰した。
一家離散ということになってしまったのだ。この時、妻の中には怒り狂う者も居た。そして、妻の中で誰一人としてマサラの傍には残らなかった。「やはり“金品”で繋がった関係だったのか・・」と、マサラは寂しく想うも、何も言える立場ではなかった。ただ、子どもたちに対しては、「申し訳ない・・申し訳ない・・」との気持ちで一杯であった。

マサラは無一文になり、おまけに持病の“咳き込む病気”が悪化し病に伏せてしまった。人生最大の不幸の中、孤立無援だと思われていた。

だが、何と、マサラの病床の傍でかいがいしく看病している若い美しい女性が居たのだ。マサラが破産してから出会った女性だった。マサラと女性は親子ほどの年齢差があったが、“恋愛関係”であった。

皮肉にも、マサラは無一文になってから“本当の愛”を知ったのだ。

「世の中に、こんなにも優しい女性が居るなんて・・」
マサラは女性のことを女神のように崇めていた。そして、女性も方もマサラに惜しみなく愛を与え続けた。まさに相思相愛だった。貧しいながらも、幸せを感じて暮らしていた。

しかし、どんなに愛し合おうとも、二人は肉体的に結ばれることは無かった。何故なら、マサラの病状はかなり酷く、それどころではなかったからだ。それが、マサラに辛い気持ちにさせた。女性は、「気にしないで」と、優しく微笑んでくれたが、逆にマサラは男として情けない気持ちになった。愛は素晴らしいが、愛してるがゆえに辛くなるという気持ちも知った。

月日が経ち、マサラは、いつまでも温もりにつかっていてはいけないと思い始めた。女性は、そろそろ結婚を考える年齢だ。マサラは女性の将来の幸せを考えたら、「いつまでも、こんなショボクレたオヤジと一緒にいてはいけない・・」と、思い始めたのだった。

マサラは女性に別れ話を持ちかけた。
しかし、女性は激しく拒んだ。「あなたとずっと一緒にいたい」と言った。マサラは、女性の中の激しさと頑固な一面を知って驚いたが、それは嬉しくも感じた。しかし、マサラのかっての価値観である“女性は結婚して子どもを産んで育てるのが一番幸福だ”との想いがよぎり、今のマサラでは、「それは叶えてあげることが出来ない」ため、女性を幸せにしてあげることは出来ないと思ったのだ。マサラは女性によって、どん底から救われた分、女性を幸せにしなければ!との想いが人一倍強かった。

マサラは何日も何日もかけて、ゆっくり女性を説得していた。
「あなたは若い。これから幸せにならないといけない。あなたは、誰かと結婚して子どもをもうけて幸せに暮らしてください。今は辛くとも、長い年月が経ったら、やはりこうして良かったのだと分かる日が来るでしょう」
そして、女性の方もマサラの気持ちを少しずつ理解していくようになった。

そして、ついに別れる日が来た。
マサラは、身がえぐられるように辛かった。
本心は別れたくなどなかったのだ! 
ずーっと女性を傍においておきたかった!
別れた後、マサラは泣き崩れていた。


数年後、マサラは信仰に拠り所を求めていた。
マサラは、人の為にひたすら祈る人生をおくった。
かって愛した女性の幸せを・・
離散した妻たちと子どもたちの幸せを・・

その後は生涯独り身で、祈りながら生涯を閉じた。
亡くなった先は、宗教施設の礼拝堂の中で、誰からも看取られずに“孤独死”だった。しかし、マサラは想っていた。
「わたしは神に看取られて死んでゆく」
礼拝堂の美しい天井画を眺めながら
「この美しい世界へと旅立つのだな」
と、幸福感に満ちて永遠の眠りについたのだ。

<終わり>

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

【1話完結型シリーズ小説】婚外片想い 「正反対のひと」
悲しいけど、人は・・
明るいほうへ・・楽しいほうへ・・
傾く いきものだ。


婚外片想い 「正反対のひと」
このストーリーは『遺書 ~ラスト ラブレター~』とリンクしています。
こちらから読んで頂くとより深いです。
※このストーリーはフィクションです



「人を好きになることが、こんなに悲しいなんて・・初めて知った・・」
苦しい胸の内、未央はそう思っていた。未央の夫の秀二は鬱病のため、休職中であった。秀二は鬱病ゆえに、ネガティブな暴言を吐くことも少なくなかった。未央は、そんな秀二にどう対応してよいか、悩むことが多々あった。しかし、秀二の家族や周りの人たちから
「未央さんほど、献身的な奥さんは居ない」
と評価されていた。しかし、未央は、周囲からそう思われれば思われるほど、本当の自分とのギャップで辛くなっていた。


未央は好きな男性のもとに逢いにいくため、支度をしていた。

名目は仕事であるし、間違いではない。未央は、月に何度かフリーランスの仕事をしていた。CADを使って設計図を描く仕事である。その仕事を貰うために事務所へ行くのだが、その担当の男性の雅之に密かに想いを寄せていたのである。

雅之と出逢ったのは2年前、仕事の紹介で出逢ったのだが、この時は特に恋愛感情も持たなかったのである。しかし、その後、雅之から野外ライブのチケットが余ってるからと誘われ、一緒に行って盛り上がった。この時から恋心を抱くようになったかもしれない。

雅之と秀二は正反対かもしれない。秀二は、野外ライブに行くようなタイプではない。人混みに酔って気分が悪くなってしまう人だ。体型も、雅之は肩幅が広くワイルドで男性らしいが、秀二はスリムで線が細い。性格は、雅之は明るく豪快で頼れる人だが、秀二は繊細で優しいが、落ち込みやすい部分も多かった。

「人は、明るい場所を好む生き物ではないかと思う」
未央は雅之の明るさが眩しかった。私生活が鬱々としているからこそ明るさに憧れるものだし、それは人として自然であるとも思ったのだ。
「逞しい腕に抱かれてみたいとさえ思う」
未央は想像しながら赤面してしまった。未央は下着から取り替えた。ピンクのレースが可憐でブラとパンティが上下お揃いのものを装着した。あまりに用意周到な自分に少し笑った。膝より少し短めのスカートをはき、フェミニンな服装をまとった。
「雅之さんから女として見られたい」

秀二とはセックスレスだった。最後にしたのはいつだったかすら思い出せないほどだ。抗鬱剤の副作用でひどく性欲が薄れてくると秀二が言っていた。たしかに、“それどころ”ではないだろう。
「夫婦だし一緒に乗り越えなければ。わたしがガマンさえすればいい」
未央は何も疑問を持たずに秀二に合わせていた。が、雅之に出会ってから、身体の内側から隠しても隠しきれぬ“女の業”が溢れ出すのを持て余していた。
「いったいどうすればいいの!! この想い!! この想いの持って行き場を!!」
容赦なく突き上げるてくるような本能に、未央は戸惑っていた。
「好きな人へ向かうエネルギーは恍惚感すらあるわ。でも、夫のことを思うと悲しくなる・・」
矛盾する想いを秘め、未央は秀二に笑顔で“行ってきます”と言って外出した。


打ち合わせの終了後、未央と雅之は二人でランチに出かけた。雅之の運転する車の助手席に未央は乗っていた。目的地へ向かう途中にラブホテル街を通った。
「あ、あのね・・ココ通ると近道なんだよ~」
「ふふふっ、誰もそんなこと聞いてないわよ!」
変に言い訳する雅之がカワイイと未央は思っていた。
「・・最近、行った? こういうとこ~」
未央は悪戯っぽい声で聞いてみた。
「いや・・行ってないなぁ。未央さんと! 行ってみたいなぁ~」
雅之はこういう冗談はサラッと堂々と言ってのける人だ。未央はポーッと赤面し、ミニスカートの足を組み替えた。
「もう~! やっぱり、そういう目的でココ通ったのね~」
「ダンナに殺されちゃうよ~俺!」
そうこうしてる内にラブホテル街を抜けた。未央は、内心“本当に入っても良かったのに~”なんて良からぬことを思っていた。上下お揃いの下着が役立つなんて思ったのだ。
「雅之さん、何で結婚しないの?」
雅之は未央よりも8才年上で、もうすぐ40歳になろうとしていた。
「好きな女の人が忘れられなくてね。アホだろ? 未央さんみたいな人が居たらすぐ結婚するんだけどね」
未央は自意識過剰ながら、“好きな女の人”というのが、自分のことでないかしらと思っていたのだ。
「秀二と別れて雅之さんと結婚できたらなぁ・・」
未央は口に出しては言わなかったが、こんなことを考える自分が怖いと思っていた。

雅之と一緒に食事をすることを、未央は心から楽しいと思った。秀二とだったら、いつも食事しながら暗い話になりがちだった。
「人は楽しい方へ傾くものだわ」
そう思いながら、未央は悲しくなった。涙ぐみそうになると、雅之が語りかけた。
「未央さん、悩みごとがあったら話してみてよ。・・ダンナのことかい? 未央さんの誰かを思いやるような気持ちが・・俺は好きだな・・」
「わたしも、雅之さんの頼りがいのあるところが好き」
未央は、お互いが気持ちの上では両想いのくせにハッキリと“好き”と言わないところが歯がゆくもあった。
「雅之さんはダンナの存在を意識している分、自分に遠慮をしているのかもしれない」
“手出し”をしないにもそのせいだろうと思っていた。

雅之と別れて、未央は家路へ急いでいた。帰宅途中も雅之との“脳内想像デート”を楽しんでいた。雅之が下着に手をかけるところまで想像して、一人で赤面していた。そして、幸せな気持ちに浸っていた。


自宅のマンションの入り口に救急車が停まっていた。
「何ごとかしら?」
未央は他人事のような気持ちで近づくと、秀二がタンカーで運ばれる姿が目に入った。
「しゅ・・、秀ちゃん!! 一体どうしたのよ!!」

未央は救急車に同行した。病院の検査では心電図も脳波も異常が無かった。
「精神的な発作でしょう」
と診断された。未央は涙が止まらず、雅之と出かけたことを後悔していた。
「わたしのせいで! わたしのせいで!!」
未央は以前にも増して、秀二に献身的に看病していた。

<おわり>

テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【短期連載小説】 大奥★社内恋愛 1
もしも、女ばかりの会社に、目の覚めるようなイケメンが入社して来たら・・・
さあ、大変です!!


大奥★社内恋愛 1

※このストーリーはフィクションです



真砂子の職場は女ばかりである。真砂子は今年で34歳になるが、彼氏もここ数年ほど居ない。
「こんな女ばかりの職場で出会いなんて、なかなか・・」
他の女性たちも同じ考えであった。顔を合わせれば、こんな話題ばかり。何となく冴えない空気が流れる。

真砂子の職場はタウン情報誌の編集と制作を担っており、真砂子はその“編集長”を務めていた。だが、編集長といっても実質名ばかりで、雑用係と自嘲していた。女ばかりの職場と言ったが、実際には3人ほどの男性が居る。1人は真砂子の上司でもある部長、他には編集に2名。だが、全員“既婚”であり“論外”であった。

部長は40代後半で社内の嫌われ者であった。変な話、部長が嫌われ者の悪役であることで、以下社員全員が団結し纏まるという現象が起きていたのだった。

女ばかりの職場のメリットと言えば、セクハラが無いことである。下ネタ1つ話しづらい雰囲気があった。それから、仕事内容に男女差はない。こういう環境下では、女性はどんどん強くなっていく。皆、朝から夜まで忙しく働き、ヒマでない為か、女ばかりであっても意外と人間関係で揉めることは無かった。
「つまらないことで揉めるのは、絶対ヒマだからよ」
と、真砂子も常日頃から思っていた。だが、仕事のデキる“強い女”集団には、悲しからずや男性たちは遠のいてゆく傾向だ。結果、“男の居ない人”ばかりだし、変な話、このことでも女同士でいい意味で纏まっていたのだ。

「あ~あ、何かこう~! 目の覚めるようなイケメンが入社して来ないかなぁ~!」
入社2ヶ月目の編集の美夏が嘆くと、他の女性は全員首を横に振った。
「あっ、あたしが入社した時も、『チッ、また女かよ』って、全員の視線がブーイング~って感じだったもんね~」
やや天然っぽい美夏が言うと憎めず、笑いを誘った。

しかし、イケメンが入社するという、夢のような妄想のような話が数日後に現実に起こったのだから、もう社内は大変な事態になってしまうのだ。


そのイケメンの名前は龍星といい、29歳、もちろん独身であった。制作に配属になった。龍星は背も高く、服もヘアスタイルもオシャレで、独り暮らしで、趣味は音楽でバンドを結成しギターとボーカルを担当しているとのことだった。性格もはっちゃけていてノリが良い。これだけモテる要素を持ってる男性はそうそう居ないだろう。だが、社内の女性陣の反応はいうと・・・、今まで仕事中毒で“男免疫”が出来てないせいか、龍星に対してややよそよそしいムードだった。特に誰かが積極的にアタックを仕掛ける風でもなく
「あれだけイイ男だもん。ゼッタイ彼女居るよね~」
と、むしろ諦めムードだった。

そんな中、編集の梨奈がプライベートで龍星と一緒に音楽ライブに行ったと話題になった。だが、梨奈は女性社員の中で唯一ミセスだったので、恋人になったというのでなく単なる友人付き合いの延長だろうと思われた。梨奈は、普段から行動が派手めで目立ちたがり屋で“手の早い”性格だった。
「龍星は、私の数ある男友だちの中でも最高よ。すっごい気が合うのよ、私たち」
梨奈は、龍星と出かけたことも自分から言いふらしたようだった。

このことが、社内の女性たちに火を付けたようだった。なるべく龍星と話をする機会を持とうと、女性たちは必死になっていた。編集長として皆を纏める立場に居る真砂子も、嫌な予感を持った。
「今まで何となく保っていた社内の均衡が、ガタガタと崩れ始めるわ・・」

だが、コトの発端の梨奈が退職することになった。理由は梨奈の夫の転勤の為だった。何となく社内に安堵の空気が流れた。だが、梨奈は爆弾発言を投下した。
「龍星ね、今、フリーなんだって! 彼女と別れたばっかりよ~ん」
そのことで、女性たちはますますざわめき始めた。真砂子は不安になったが、そうもしていられなかった。梨奈の送別会と龍星の歓迎会を同時に行うことを、社内メールで社員全員に送った。すると、案の定、女性たちは
「決戦は今度の飲み会!」「何、着て行こうかしら~」「美容院にも行かなきゃ~」
と、そわそわし、真砂子はため息をついていた。

「良かったら、何か宴会芸をしませんか? ただ普通に飲み会するだけじゃー面白くないでしょう。俺、盛り上げるの大好きなんっすよ! どうせやるなら楽しく行きましょうよ! ネッ」
ハッと真砂子が振り返ると、龍星が真砂子に直接話しかけて来たのだった。
「うっ・・やっぱりイイ男よね。女性たちがざわつくのも仕方ないわ~」
真砂子はポーっとなって、カラダの力が抜けそうになったが、すぐに冷静に編集長の顔になった。
「そうね。いいアイデアね。せっかくだから何かしましょうか。内容は・・あなたに全て任せるわ!」
「ホントですか! 何か思いついたらメールしますよ。あのー、携帯のメルアド教えてくれませんか?」
「ええーっ、携帯の方の?」
「ダメっすか? 編集長忙しいし、携帯の方がいいかと思って・・・」
真砂子はビックリしたが、お互いの携帯メールアドレスを登録し合ったのだった。

それから、時々、真砂子の携帯に龍星からのメールが来るようになった。メールは夜、帰宅しているであろう時間帯に来ることが多かった。真砂子は仕事が終わった時、充実感と同時に孤独感にも襲われることがあった。そんな時に来る龍星のメールについトキメキを覚えてしまう。内容は飲み会のことと、業務内容のことだが、文章の合間にプライベート的な質問を織り込むこともあった。
「龍星は、何故私とメールのやりとりをするのかしら? ひょっとして、ちょっとだけ私に気があるの?」
そう考えると真砂子はカラダが熱くなった。そうしてるうちに龍星からメールが来た。
「真砂子さんは、美人で仕事がデキていかにもキャリアウーマンって感じだけど、ちょっと取っつきにくい雰囲気がありました。でも思ってたよりも気さくで話やすくて、癒されます♪」
ドキュン!! 真砂子はハートに矢を射抜かれてしまった。自分も龍星に気があるとの返信をしょうとしたが、考えたあげく無難な返信にしてしまった。
「龍星よりも5つも年上だし、モテモテの龍星がこんな私なんかマジに相手にするわけないわよね・・」
本当は、編集長としての立場でものを考えないといけないのに、真砂子はつい“一人の女”になって考えを巡らせていた。
「社内の女性たちが皆、虎視眈々と龍星を狙っている中、私一人が独占してしまったら、女性たちの嫉妬もスゴイだろうなぁ・・」
単にメールのやりとりをしてるだけなのに、まるで龍星と恋人同士な気分にまで一人で妄想で盛り上がってしまうのだった。

その夜、真砂子はシャワーを浴びて寛いでいた。
「そろそろ龍星からメールが来るかしら?」
だが、いつまで待っても一向に来ないので、真砂子は自分から話題を作ってメールを送った。だが、それでもメールが来ることは無かった。何度も自分から送るのは変だし、真砂子はヘンなところでプライドが高いのだ。

次の日、龍星に話しかけてみるが、龍星は冷ややかな顔でそっけなかった。
「どうして、どうして! 一体何があったの? この間まですごくフレンドリーだったのに!」
真砂子は心が寒々としていくのを覚え、堪えきれずトイレに篭って一人で泣いた。無敵のキャリアウーマンのように思われ、仕事のトラブルも泣き事言わずに難なくこなす真砂子だが、恋に関しては、“まるで中学生みたいだな”と思ったのだった。

そして、その夜も、次の夜も、また次の夜も・・・メールが来ることはなかった。真砂子は、これだけのことで傷つき心の痛みを覚えたが、社内の女性たちに悟られぬよう気丈に仕事をこなした。だが、何故、突然メールが来なくなったのか!・・その理由が知りたくて堪らない思いをしていた。自動販売機へドリンクを買いに行こうとする龍星を、真砂子はついに追いかけていた。

<第2話へ つづく>

テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学





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